「濟其美」(そのびをなす)の意味:それぞれの良さや魅力を大切にする禅語

濟其美の意味と実践

読み方と意味、出典

濟其美は「そのびをなす」を読みます。出典は「春秋左伝」で「世世濟其美」とあり、世々(よよ)は代々という意味で、先祖・先人の良い行いを引き継いで行っていくことを意味します。

使い方としては、直接的には代々の家業を引き継いで頑張っていくこと、伝統の形式を次代に継承していくことという意味で用いることになります。

世世の部分をとって、濟其美として用いる場合には代々の部分を取って用いることになりますから、其(その)の部分が重要になってきます。ある物があって、その美を実現するという意味になりますので、そのものの本質的な特質・良さ・魅力を引き出すという意味合いが強調されてきます。

拡張的な意味として、それぞれが「そのものの魅力を発揮する」という意味を取る場合があります。それぞれの個性が尊重され、多様性に富むという意味で濟其美を解釈するという考え方です。現代的な解釈で、原典の世世濟其美の若干封建的な雰囲気の真逆のような意味合いになってきます。以下では前提として「その物本来の魅力を取り戻す」という意味で、実践を志向していきたいと思います。

濟其美の別の意味

英語で言うと

Restore the original beauty

世世の含みを割愛して、その物本来の美しさ(あり方、正しさ)を取り戻すといういみで、Resotere the original beautyとしました。美はVirtue(美徳、善行)の方が意味が近い気もします。その場合には

・Practice the original virtue

・Cultivate the pristine virtue

といった表現でもよいかと思います。

エリザベス女王が今を生きていたら

同じ意味の禅語

「本来を取り戻す」という点では、こういった禅語が近接する言葉になります。其の美をなすわkですから、元々あった本来の状況に本質を見出す、今日それを復活させようという実践決意の言葉です。

・温故知新

・古教照心

閑古錐

明珠在掌:日々鍛錬
古い物の魅力を取り戻すという本来回帰を意味する禅語は多い

使い方:含意をひも解く

これまでの伝統の魅力を引き継ぎ、さらに高める

古いもので使いづらくなったものを捨てるのではく、そのものの魅力を活かして復活させる、この時ただ復活させるのではなく、発展的に復活させるというののが「濟其美」の精神だと思います。写真のように古い家はさら地にして新しい家を建てた方がメリットが大きいようにも思えますが、その魅力を活かしながら、現代の技術やニーズに合わせてリノベーションをかけることで、新築にない魅力的な家が出来上がります。

濟其美:本来の良さを発展的に取り戻す

現状維持では過去の美しさに辿りつけない

発展的復活と書きましたが、その反対が現状維持です。現状維持は実際には現状維持とはならず、徐々に劣化して後退していきます。かつてのエジプトのピラミッドは、白く輝いていて、頂きは金色だったとされています。そのままにしておけば、徐々に自然劣化していきますから、本来を取り戻すには、相当のパワーが必要になります。濟其美は、ただ前例踏襲・現状維持ではない積極的な意味を含んでいることになります。

古きものの本来の魅力を考える

本来はどうだったのだろうか?本質を洞察する

本来を取り戻すには、まず本来がどうだったのかよくよく検討しなければなりません。エジプトのピラミッドであれば、石灰岩等で白かったピラミッドという本来を突き止めることで、それを絵にしてみると、なるほど豊かな国の王様の墓にふさわしい宮殿的な情緒が掴めてきます。本来を探索することは濟其美の第一歩ですが、それほど簡単なことではなく、この検討を疎かにすると「この人を見よ」の修復のように、本来を見失った回復になってしまいます。


修復失敗
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=37611657

その美をなしていない
https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=54153025

今、より本質に迫ることも可能

本当のことを探るというのは、懐古的であると同時に最先端を志向するという度量のいる作業です。写真のように、有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの自画像も、現代の技術で今日的に回復させると、元の絵以上に、ダ・ヴィンチの芸術家の雰囲気が掴めるようになります。同時代を生きていたら感じたであろう気鋭の現代アーティストとしての迫力です。

現代芸術家としてのレオナルドダヴィンチ

詳しくはこちらのYoutube動画をみてください。途中で紹介したエリザベス女王もここに収められています。(https://youtu.be/xJp4qA489w0?t=296

歴史上の人物たちの現代感が掴めてくるので、美術鑑賞や歴史小説を読んでも味わいが変わってくるのではないかと思います。

実践編

さて、ここまでは濟其美のイメージを絵でお伝えしてきたわけですが、ここからは自分の生活における実践を考えてみたいと思います。

身近な場所に“その美”を取り戻す

わずかな時間での部屋の掃除、或いは画像のような本格的なリフォームも文字通りの濟其美だと思います。本来使われるべき空間や道具を、そのものの魅力や機能を取り戻すかたちで回復させること、小さな実践は掃除から、少し大きめの実践はDIYやリフォーム、リノベーションといった生活実践が考えられるかと思います。


実践とは地道な作業

本来がどうなのかを検討することの大変さはすでに述べましたが、実際にはそこからの回復作業はさらに大変です。上の図では、キレイになった浴槽でこんなにキレイになるのかと驚いてしまいますが、その作業量をみると納得の労力です。

しかし、徹底自力という禅の基本原理に基づいて、「自分でできること」を確信してほしいと思います。そして自分でキレイにできた浴槽は毎日使います。格別の使いごこちは業者の頼んだもの以上になることは言うまでもありません。実際手間をかけてやるとお金をかけてもできない水準の完成度になります。

リフォームという禅の実践
濟其美の実践は大変だ!!

まとめ

いかがでしたでしょうか。濟其美の本質的な意味を考えながら、その実践に必要な検討作業や実践作業を考えてみました。掃除やリフォームでなくても、途中みた創作活動などの実践もあるかと思います。

或いは、少し疎遠になっている人への手紙は、かつての友好関係を発展的に回復することになるかもしれませんし、昔やっていたスポーツをもう一度やってみると、かつてのように動けなくてもかつて感じられなかった以上の楽しさを感じられるかもしれません。

今、この後すぐ、実践してみください。それでは、また。

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