フィル・ジャクソンと禅:瞑想でスポーツに勝つメンタルを鍛える。アスリートのマインドフルネスとは

スポーツにおける勝敗を左右するメンタル。

この指導を瞑想というかたちで実践して大成功したバスケットボール界の名コーチフィル・ジャクソンの事例を紹介します。

アスリートに必要な心の強さを心の充実(マインドフルネス)によって得るため、選手を狭い部屋に閉じ込めて座禅をさせ、「ZENマスター」というあだ名をつけられました。

スポーツで勝ための秘訣とは

スポーツの世界には名将という存在がいますよね。

その人の率いたチームは、それまでとは別のチームのように強くなったり、実行した作戦が見事に上手くいくといった神がかったことが起こります。

誰ソレマジックといった表現がスポーツ紙の見出しになったりします。

一発勝負で強いこうした名将たちですが、それだけではなく、毎年のように強いチームを作る、何十年も優れた選手やチームを作り続けるといった長期の業績がなければ、名称と称されることはありません。

名将フィル・ジャクソンのメンタルトレーニング

ここでは、フィル・ジャクソンというバスケットボールNBAの歴代も最も優れたコーチを取り上げてみたいと思います。

フィル・ジャクソンは率いたチームが11回優勝するというダントツのコートとして業績があり、配下の選手にはマイケル・ジョーダン、コービー・ブライアント、デニス・ロッドマンといったNBA屈指の看板選手がいました。

彼のチームづくりやバスケットボールの戦略・戦術は専門外なので分かりませんが、一つ他のコーチとまったく異なる点があり、それは彼のあだ名「ZENマスター」に象徴されています。

禅マスターが実践したマインドフルネス

フィルジャクソンは、禅マスターと呼ばれています。彼自身が禅に傾倒していて、その選手にも禅をやるように要求したからです。具体的な証言がたくさんあって、「突然狭い部屋に閉じ込められて、静かに座って、呼吸に集中しろと言われ、最初は戸惑った」というようなものです。

スピードやパワーなどの個人の身体能力や、ハンドリングやシュートなどの個人のバスケットスキル、そしてパスワークや戦術理解といったチーム練習とも異なる、フィル・ジャクソンのこの謎の練習には、多くのNBA選手が最初は戸惑ったこととと思います。

メンタルトレーニングには「静けさ」を鍛える座禅が有効

 瞑想という言葉で語られもするこの、狭い部屋で、静かに座って、呼吸に集中するという練習ですが、これは完全に坐禅の手法ですよね。

今でいうマインドフルネスを1980年代にやっていたわけです。

最初は戸惑った選手たちも、名将に言われてしまったし、やってみるとパフォーマンスも上がるということで熱心に取り組んだようです。

試合中鬼と化すマイケル・ジョーダンやコービー・ブライアントは、練習への取り組みも恐ろしいほどの執拗さで有名ですから、きっとこの不思議な練習にも相当の気持ちで取り組んだことと思います。実際のコービーの証言も出ていますね。

今は、あらゆるスポーツの練習に取り入れられている禅の坐禅メソッドですが、本当に正しく、かつ全力で取り組んだ事例というのは少ないかもしれません。

優れた名称と優れた選手、その信頼関係によって坐禅メソッドは大きな成功を収めたとも言えます。

ではなぜ、坐禅がスポーツで成功を収めたのでしょうか。

【参考】「心を静かに保て」という禅語はこちらから

心技体は、大事なもの順に並んでいる

スポーツ心理学の世界では心技体のこの順番を重視したりしますね。心がいちばん大事だと。そして多くの選手は逆で、技や体の練習ばかりすると。仮のスポーツの要素がこの3要素だとして、その掛け算でパフォーマンスが決定するとしてみましょう。それぞれ最大が100%で、全て100%として計算してみましょう。

心・技・体をそれぞれ100点満点にして掛け算する

心(100%、つまり1)× 技(100%、1)× 体(100%、1)=パフォーマンス(100%、1)

という計算式をまず前提としてみます。 

心のパフォーマンスが30%の場合

心(30%、つまり0.3)× 技(100%、1)× 体(100%、1)=パフォーマンス(30%、0.3)

技と体は100%です。しかし、心が30%のために全体のパフォーマンスは30%に落ち込んでしまいます。練習では調子がよかったのに、本番で弱かったというパターンです。

技も体も80%の出来だが、心も80%の場合

心(80%、つまり0.8)× 技(80%、0.8)× 体(80%、0.7)=パフォーマンス(51.2%、0.51)

最初の場合に対して、心が優位たために、逆転可能という計算になります。

心技体という言葉は、大事なもの順に並んでいる

という考え方も分かるような気がしてきます。

「今すぐ使えるメンタルトレーニング」(高妻容一、ベースボールマガジン社)

【参考】「自信が大切」という禅語はこちらから

心を充実させるマインドフルネス

フィル・ジャクソンのチームは、チーム全体でこれをやるわけですから強いというわけです。

試合当日の特に最終盤の場面で、心の点数が高く、冷静さを失わずチームへの信頼を失わず勝利への執念を絶やさないチームと、心の点数が低く、土壇場で冷静さを失い慌ててしまったり、チームメートへのフラストレーションを溜めてしまったり、コーチに不信感を募らせてしまったり、もう勝てないのではないかと諦めが一瞬頭をよぎるチームでは、結果が大きく異なるということも言えるかと思います。

ZENマスターの勝利の秘訣の一端が見えてきましたね。

長期の視座で取り組んでみよう

とはいえ、短期、単発の坐禅で良い試合の結果を得ることは難しいかもしれません。

長期の地道な取り組みが必要です。

名将や名選手が日々積み重ねたように、コービーのようにその後の生活にも取り入れているようにです。

ファッションのように皮相を見習っては、願った成果は永遠に得られません。

少し長い目線で、コツコツ取り組んでみてください。

幸い、座禅はお金がかからず、だれでもどこでもやることができます。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

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