麻三斤の意味:仏とは麻の生地が三斤!?

麻三斤は一人分の服をつくる生地のこと。布は服にして使ってこそ、主体的に物事に対峙せよという禅語
(まさんぎん)

今日の禅語は「麻三斤」です。

一人前の服を作るだけの麻の布を意味する言葉が麻三斤です。

この禅語は、「仏とは何か」という禅問答から生まれています。

どういう意味なのか、なかなか聞いただけでは理解しづらい言葉ですが、実はあなたの生き方を尋ねています。

それでは解説していきます。

読み方と意味

読みづらいですが、何となく麻(あさ)に関することなのかなということぐらいは分かりますね。

極度に短くして用いる禅語は、なかなか意味を推察することも困難です。

まずは読み方と直接的な意味から確認していきます。

読み方

「麻三斤」は「まさんぎん」と読みます。

日本語読みして「あささんきん」と読んでもよいかと思います。

麻は植物の「あさ」のことで、ここでは衣料の材料になっている状態、麻布を想定していただければと思います。斤は重さの単位です。

出典は禅問答

公案集である「無門関」(第18則)、「碧巌録」(第12則)などで取り上げられる逸話です。

読み下し文

僧、洞山に問う、「如何なるか是れ仏」。
洞山云く、「麻三斤」。

現代語訳

ある僧が洞山禅師に尋ねた。「仏とは何か」
洞山禅師は「麻三斤」と答えた。

解説

まず、師家である洞山禅師が弟子に聞かれます。

問い

仏とは何か?

洞山禅師の答えはぶっきらぼうに、一言だけ。

禅問答の典型的なパターンです。

答え

麻三斤!!!

麻三斤とは何か

洞山禅師が「仏とは何か」と聞かれて、「麻三斤」と答えたというエピソードです。

つまり、生地一反が仏?ということになります。

通説「すべてのものに仏性が宿る」

すべてのものに仏性が宿るという解釈で、この言葉を理解する考え方もあります。

実際そういう言葉はいくつもあります。

    山も川も草木にもすべての仏性が宿る
  • 山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)
  • 川の流れや松風に法の声を聞くことができる
  • 澗水松風悉説法(かんすいしょうふう ことごとくほうをとく)

したがって、麻は三斤ではなくても一斤でも十斤でも構わないということになります。

麻が麻布ではなく、胡麻(ゴマ)であるという意見もあります。

いずれにしてもそこに仏性があるから同じというわけです。

なぜ麻が三斤なのかの理由は?

しかし、それでは他のものでもなく、あえて生地1人前とした洞山禅師の狙いが分かりません。

「麻三斤」が多用される禅語になっているには理由があるように思えます。

そうでなければ、草木や松風とした方が、自然から仏さまを感じるという実践的な意味合いとして理解できますし、風情もあります。

なぜ麻布を三斤としたのか、その理由を探索していくことにします。

研究成果

禅書研究の大家である入矢義高はこの点が同じく気になっていたそうで、京都大学吉川忠夫氏からヒントをもらっています。

租庸調の税収の取り方をまとめた一節です。

唐の玄宗勅撰の法典集『大唐六典』巻3

布を輸むる者は、麻三斤を兼ね調す。

入矢義高の解説です。

ここからして、「麻三斤」とは製品化された麻糸の分量(ここでは重さ)のユニットであることが確認できる。
(中略)
まさに僧侶の衣一着分ができる材料である。
ちょうど一人分の和服が作れる布地の長さの単位を一反というように

入矢義高『自己と超越』

麻三斤の正体

麻三斤は1人前の衣類を作るくらいの量ということが分かりました。

反物が一反、着物用の生地でくるくる巻き物になっているのが一人前ですから、それと同じ意味ということになります。

この生地の巻き物1つが一反です。一人前の着物が作れます。

日本語訳するなら「生地一反」でもOKというこちになります。
では、これは何を意味する言葉なのでしょうか。

なぜ仏が着物一反なのか

生地は麻であれば、手間をかけて糸を作り布にしていきます。

布にするのは何かを作るためで、服や袋を作るという目的があります。

麻三斤とは一人前の分量の麻であることが、上述のとおり分かりました。

つまり、この禅語では、「この布で服を作って着てみろ」と言っているわけです。

含意としては、「服を作らないなら、その麻布は何の役にも立ってない」ということになります。

例えの意味するところは?

もちろん、これは比喩であり、この禅語が言わんとするところは、

生地=自分のいる環境

と考えます。

その意味としては

「目の前に材料がそろっているのだから、自分なりに工夫して自分のものにしてしまえ」

ということです。

POINT
麻三斤の言いたいこと

「自分の目の前にある環境や状況、出来事に対して、指を加えて見ているようではダメだ。
自分なりにどう対処すべきか、どううまくやり抜くべきか考えて、試行錯誤してやってのけろ。」 ということになります。

 服は着てこそ意味がある。であれば、その生地で服を作ろうではないか」と、分かりやすく言ってくれればよいのですが、禅問答とはいつも短い一言で難解です。。

実際に服を作る過程から考える

ここまで確認してきたように、麻三斤とは「主体的に自分がどう関与するのかを考えてやってみよう」という禅の前向きな思想が現れている禅語でした。

服は作るのは大変ですが、自分の体に合わせて自分で作ってみれば楽しいですし、着心地もよいものになるでしょう。

うまく作れないかもしれませんし、やり直さなけれいけないかもしれません。

でもやってみよう、というのが禅マインドです。

言葉そのものの意味をヒントに考えてみる

禅語は具象的な単語を用いながら、抽象的に思考することがしばしばあります。

この場合は「布」です。

  1. どう活かすのか考える
  2. 自分に合わせて考える
  3. 色々試行錯誤する
  4. 自分らしさが実現する

この布をてがかりにして、こちらの動画を参照しながら、「麻三斤」を考えてみます。

⓵どう活かすのか考える

使わない着物という素材があったとします。見なかったことにして仕舞いなおすのではなく、まずはこの現実と対峙します。

②自分に合わせて考える

捨てるのではなく、これを活用して自分のものにできる方法を考えます。

自分なりのやり方を考え抜きます。

③色々試行錯誤する

実際にやってみると、当初思っていたようには出来上がりません。

試行錯誤のプロセスを楽しみます。

④自分らしさが実現する

自分で作ったから自分のサイズやセンスにあったものが出来上がります。

主体的なトライ&エラーは、大きな創造性と表裏をなすものであることが分かります。

練習問題

少し面倒な状況に直面したとしましょう。

これは自分には関係がないと逃げてしまったり、他の誰かがやってくれるはずだと人を頼ってしまったり、時間が経てば解決するはずだと先送りにしたりすることもできます。

しかし、服は作るのは面倒だからいいやとか、人に作ってもらおうとか、買ってこようというような回避的・受動的態度を麻三斤の思想は、採りませんせっかく生地があるのだから、存分に生かして自分のものにしようと考えます。

苦境や失敗の最中にあっても、存分に向き合って自分の力でこれを乗り越えて、この経験を糧にしようと考えます。

その他の解釈

たった一言、「麻三斤」。

短さゆえに、冒頭の「あらゆるものに仏性が宿る」以外にもいろいろな解釈もいろいろ成り立ちます。

麻布をこしらえてくれた人を想う

少し別の角度から深読みしてみましょう。

麻の布は作るにしても大変なプロセスがあります。

こういうバックグラウンドを想い、大切にするという深慮をも促していると考えることもできます。

麻から布を作るのは大変な作業です

目の前にある麻布に対して、自分のために自分の服を作るということだけでもいいのですが、麻布は麻から作らなければならず、麻を作ってくれた人がどこかでいると考えると、視野が広がります。

Point

せっかくの麻布をほったらかしで何も作らないよりはよいですが、どうせ作るならばそのルーツまで考えをめぐらし、感謝するといった気持ちがあった方が仏道に適います。

胡麻と解釈する説もある

麻三斤の麻を「胡麻(ごま)」と解釈する考え方があります。

日常的なものにさえ、仏心をみることができるという解釈になります。

あらゆるものが仏であるとする仏教思想から理解するアプローチです。

この解釈は、閑古錐(古びた錐)、乾屎橛(乾いたクソ)といった禅語にも適応するというものです。

本来の禅とは

日常が理想の地である

このページでは、「禅は自由と勇気を与えてくれる生活哲学である」という考え方の下、上記の考え方とは異なる解釈をしてきました。

すでに閑古錐や乾屎橛の考察でも考えてきた通り、異なる解釈で捉えています。

    古びた錐に仏性が宿る?あるいは他の意味がある?
  • 閑古錐」(かんこすい)
  • 干からびたクソに仏性が宿る?あるいは他の意味がある?
  • 乾屎橛」(かんしけつ)

麻三斤の解釈

まとめますと、麻三斤の解釈は、

  1. どんな状況に直面しても、自分で解決できるものとして取り組む、創意に富んだ姿勢
  2. 自分を中心に自立的に考えれば、困難な環境も周辺世界もすべて自分のものやコトに拡張できる
  3. どんな所与の条件も、ありがたいことにお膳立ていただいたものであり、感謝をもって対峙するのがいい

といったことになります。

まとめ

目の前に転がっている生地一反、そのままにしておくのか、切って貼って自分の衣類にするのか、あなた次第です。

さあ、目の前の現実に刮目し、困難に際して工夫して自分のものにしてしまいましょう。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

参考文献:「一行物」(芳賀幸四郎、淡交社)
画像の一部:https://pixabay.com/
参考・出典:
https://www.youtube.com/watch?v=d5kd31xWtus
https://www.youtube.com/watch?v=RHKKrr4_U68
https://www.youtube.com/watch?v=N_psUnDYg4c
https://www.youtube.com/watch?v=-I0Oa92KSPs&t

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  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
  12. 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
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  14. 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
  15. 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
  16. 0字の字

おまけ:「実際に裁縫してみる」

無心で手を動かすというマインドフルネス

麻三斤は例え話ですが、生活日常の例えにしていて、実際に裁縫というかたちで実践することもよいことだと思います。

こちらの動画では、裁縫に関心がないと自分で思っていた人が自分でできるようになっていること(実践と自信)、夢中でつくることで精神的な安定を得ていること(マインドフルネス)、着る人のことを想って心を込めて作っていること(利他と深慮)が体現されています。

生活と実践と精神が調和した、まさに“日常実践の禅”そのものです。

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