惺惺着(せいせいじゃく)の意味

心静かで、自分自身や現実と向き合っている境地を示す禅語

惺惺着の意味とは

読み方

「せいせいじゃく」と読みます。

訓読みできる禅語は多くありますが、この語を訓読みすることはありません。

出典

この語の出典は、『無関門』という禅宗の経典に記載されています。

禅語の出典経路

禅語の出典にはいくつかのパターンがありますが、「惺々着」は正当な禅の教本に由来する生粋の禅語といえます。

  1. 禅書に由来するもの
  2. 詩句から取り出したもの
  3. 故事成語から取り出したもの

出典となる有名な一節は、もう1つの禅語「主人公」もよく用いられます。

それでは原文を確認していきます。

原文(無門関 第十二則)

端厳彦和尚 毎日自喚 

主人公
復自応諾 乃伝

惺惺著


他時異日 莫受人瞞
若 若

意味

端厳彦(ずいがんげん)和尚は、毎日自分に話しかけていた。

「主人公」
「承知した」

「心を落ち着けていろ」
「はい」

「いつ何時も、人の目くらましにあうな」
「はい、はい」

まずは漢字の意味から

惺々着は、見慣れない惺という言葉と、着の使われ方が日本語の常用にない意味で使われているため、直感的な理解が困難です。

まずは漢字の意味から分解して考えていきましょう。

1. さとりがよい。さとい
2. 静か。心が静か

由来/成り立ち

「惺」は「澄みきった心、清い心」を表わす。澄んだ空に現れる「星」と「心」を組み合わせたことに由来。

状態の継続を表す助詞。

「惺々着」の意味

つまり、惺々着は、「心を静かに保て」ということになります。

ただ、出典を読み解くと、ただ冷静であれと言ってるのではないことが分かります。

3つの投げかけの真意

一人の禅僧が自分自身に声をかけていたというエピソードです。

話しかけていた内容は全部で3つです。

  1. 主人公!
  2. 落ち着いていろ!
  3. 人に騙されるな!

短い言葉ですが、いずれも重要な禅の意味合いあります。

毎日自分に問いかけていたというところもポイントです。

1.主人公!

ここでいう「主人公」は、禅が重視する最も基本的な考え方である「絶対的な主体性」のことです。

映画・演劇の中心人物のことではありません。

日々確認すべし

考え方によっては自分が人生の主役であると捉えて、絶対的主体性という意味を掴むということでもいいかもしれません。

2.落ち着いていろ!

静かに落ち着いているさまは禅の理想の姿です。

冷静であること、地に足がついていることを禅は常に勧奨します。

3.人に騙されるな!

人の意見を取り入れることも大事です。

しかし、人は必ずしも本当にその人を想ってアドバイスしてくれるとも限りません。

まず自分を信じることを大切にする」というのは臨済宗の開祖である臨済の教えです。

臨済は人の話を「人惑」と言って切り捨てました。

【参考】人のことは気にするなという禅語はこちらから

解説:対立しそうな態度を合わせ持つ

絶対的な主体性と心の落ち着きを同時に自分に問いかけているところが、この一節の興味深いところです。

絶対的な主体性と聞くと、傲慢な態度や強すぎるリーダーシップが想起され、どちらかというと声の大きいリーダー像が目に浮かんできます。

POINT

主体的だが物静か

 しかし、禅の考える真の主体性を持った人物像は真逆ということです。

むしろ、物静かで心を散らかすことなく真摯に物事に取り組む人です。

環境の変化や結果がすぐに出ないことにうろたえたりせずに一歩ずつ歩む人です。 

物静かだが従順ではない

一方で物静かだからといって、常に従順で物分かりがよく、いつでも人の意見に従う人ということでもありません

静かだけれども芯のある人、それが禅の理想とする人です。

使い方

「惺々着」は澄み切った空という語感があり、心の冷静を意味し、またそれに基づく主体性という含意があることを確認しました。

とすると、使い方としては

  1. 心機一転となる門出を祝う場面
  2. 喧噪を逃れてリトリート(隠遁)する場面
  3. 混乱のなかで事態の収拾を必死に図る人を応援する場面

が考えられるかと思います。

そういう時宜での茶掛け、揮ごうにピッタリかと思います。

「惺々着」の季節

「惺」の意味から、星のキレイな冬の夜がよさそうです。

空高く澄み切った秋空も似合う言葉だと思います。

【参考】心の静けさを大切にする禅語はこちらから

落ち着きを得たいならば

冷静さと主体性

禅の答えは「座禅がよい」と答えることになります。

オンライン座禅会なら自宅でいつでも参加できます。

英語でいうと

Just be serene

惺は澄み切った心で、惺々着で心の冷静さを促す意味になりますから、心静かという意味でcalm、peaceful、composedなどが考えられます。

ここではsereneを採りました。

英訳のポイント

「惺」に空に静かに輝く星の意味合いがあることを途中確認しました。

sereneも空が澄み切った状態や海が穏やかな状態を表す形容詞として使われます。

また、平穏な隠遁生活といったときにsereneseclusionと表現したりするため、sereneを採りました。

この語の英訳が難しいポイント

惺々の繰り返し表現と、着という中国語特有のアスペスク助詞と日本語で受け取る古典的な響きを英訳しようとしました。

しかし、繰り返しは英語で使われない言い回しで、また状態を維持する助詞が英語で見当たらず、直訳調でjust beとなりました。

うまい言い回しがあれば、ぜひ教えてください。

まとめ

以上、静かで、しかし主体的な生き方を表わす「惺々着」の解説でした。

何かの参考になれば、幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

引用・参考文献:
・『一行物』(芳賀幸四郎、淡交社)
・『一期一名』(「惺」の意味)
・『東京外語大学言語モジュール』(「着」の意味)
画像の一部:
・「pixabay
・「photoAC

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