歩歩清風起(ほほせいふうがおこる)

いつでもどこでも何にもこだわらない

言葉から歩くと一歩一歩から清らかな風が起こる聖人が想起されます。

そのような受けたり方でも構いませんが、禅語として固有の意味があり、その当たりを抑えるとこの語の味わいも一層増します。

それでは意味をみてきましょう。

原典

まずは原典から確認していきます。

出典は大応国師の語録です。

大応国師は日本の禅僧ですから、「歩歩清風起」は日本生まれの禅語ということになります。

『大応国師語録』巻下

師云
檀越踏毘盧頂上行
此意如何
師云
歩歩清風起

大応国師

大応国師は10世紀中国の言葉で、『明覚禅師語録』、『古尊宿語録』に記述がみられ、よく使われる禅語になっていました。

歩歩清風起といった大応国師は、13世紀の日本の禅僧ですから、順番としては歩歩是道場が先で、この語を踏まえて、大応国師は歩歩を用いて、歩歩清風起としたものと思われます。

大応国師は南浦紹明(なんぽじょうみょう)というのが実際の名前で、死後に宇多上皇から「円通大応」の国師号が贈られたために、大応国師と呼ばれることも多くあります。

現在の日本の臨済宗の法系は、すべてこの禅僧に行きつくため、禅史において最も重要な禅僧の一人です。

書き下し文

師いわく 檀越(だんのつ)よ 毘盧頂上(びるちょうじょう)を踏んで行け この意いかん 師いわく 歩歩(ほほ)清風が起こる

「歩歩清風が起こる」と送りがなをつけましたが、歩歩清風起こると「が」をつけない読み方をすることも多くあります。
「歩歩清風を起こす」と読むのはあやまりで、その場合は歩歩起清風となっていなければなりません。

意味

師がいうには

「信者諸氏よ、仏の頭を踏み越えていくことだよ」

信者

「どういう意味でしょうか」

師は言った

「いちいちにおいて物にこだわらずにさっぱりとしていることだ」

解説

禅語には少ない言葉に大きな意味合いを込めるため、特定の単語に特定の意味を持たせて用いる法則のようなものがある場合があります。

禅における清風の意味

禅語における清風は、物質的なものに執着しないさまを意味します。

これらは明確に、モノにこだわらずに貧乏をまったく気にしないさっぱりした境地をあらわしています。

・下載清風(あさいのせいふう)

・無心椀子貯清風(むしんのわんすにせいふうをたくわう)

・破襴衫裏包清風(はらんんさんりにせいふうをつつむ)

歩歩とは生活全般のこと

歩歩は一歩一歩の歩くことというよりも、一挙手一投足、もっと踏み込んで日常の雑事全般における生活態度を表しています。

「歩歩是道場」も同義で歩歩を捉えます。

つまり、「歩歩清風起」は、生活における一挙手一投足において、一切物理的にこだわらないという意味になります。

経済的な損得や、見栄や虚飾を考えず、さっぱりと生きるさまに、周囲の人も清風のような心地よい気持ちを感じるようすが表されています。

この語の季節

上記のとおり、清風に意味は物事にこだわらないという意味ですが、涼しい風を感じたい夏、朝晩の涼しい時間帯の散歩を想起するような用い方でよいかと思います。

禅は具体的な体感を観念的な理解よりも重視しますから、夏の夕涼み、散歩の時間に涼しい風を感じながら、「いちいちにおいて物質的なもの、金銭にこだわらずにさっぱりと生きよう」と思えれば大応国師の意を得たということになりましょう。

まとめ


何をするにも涼しげなさまになれば、立派な禅者と言えます。

「本来無一物」、元々何も持たずに生まれていきて何も持たずに死んでいくのだ、何を持っていなくとも何の不安もないと、どっしりとした心構えが、歩歩清風起の本懐です。
どうぞ夜風に吹かれながら、腹の底からそう思えるよう試してみてください。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

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  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
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