葉葉起清風(ようようせいふうをおこす)
さわやかな旅立ちの時
実にさわやかな雰囲気の言葉です。
この言葉が使われた文脈や禅語独特の語用を理解すると、味わいが増します。
意味の探索
まずは出典から見ていきましょう。
出典
南宋時代の傑僧、虚堂智愚(きどうちく)の語録をまとめた『虚堂録』の一節です。
『虚堂録』巻七
著名な臨済禅の僧侶で、日本でも一休さんこと一休宗純が私淑していたことが知られています。
誰知三隱寂寥中
因話尋盟別鷲峯
相送當門有脩竹
爲君葉葉起清風
書き下し文
誰か知る三陰寂寥(さんいんせきりょう)の中
話に因(よ)りて盟を尋(つ)いで 鷲峯(しゅうほう)に別れんとするを
相(あい)送りて門に当たれば修竹有り
君(きみ)が為に葉葉(ようよう)清風を起こす
意味
石帆惟衍・石林行鞏・横川如珙の三人が国清寺に出立するときの話です。
三隠(寒山、拾得、豊干)の遺蹟を訪れるにあたって
師匠である虚堂禅師の住む鷲峯庵に別れの挨拶にやって来た。
門まで見送ると、門前に竹林があった
竹の葉は彼らに清風を起していた
細かな言葉の解説
禅語はとても短いですが、深い文脈が込められています。
清風はたびたび登場するキーワードの1つで、ある禅の価値観を表しています。
葉葉
葉葉は同じ言葉を繰り返す畳語(じょうご)で、日日是好日、歩歩是道場というように禅語でも時々用いられます。
日本語の山々、国々、我々、神々と同じように、漢語においても名詞では、それぞれの〇〇、すべての〇〇という意味になります。
英語ではeachかallが用いられます。
清風
清風は禅語の文脈では物事にこだわらないさま、何も持たないさまを表します。
・下載清風(あさいのせいふう)
・無心椀子貯清風(むしんのわんすにせいふうをたくわう)
・破襴衫裏包清風(はらんんさんりにせいふうをつつむ)
いずれもモノを持たないこと、こだわりのない生き方を示す言葉として清風が用いられています。
大意
虚堂も3人の弟子も何もしゃべらないまま門まで来て、虚堂はただ静かに見送った様子がうかがえます。
旅立ちにあたっても特に餞別(せんべつ)を渡すわけでもなく、特に言葉をかけるでもなく、弟子たちも大した荷物を持たずにさっぱりとした心持ちで旅立ちます。
くどくどせずにさわやかな別れと旅立ちの様子が、竹林を流れる心地よい清風と重なります。
風が葉を揺らすのではなく、葉が清風を起こすとしているところが面白く感じられます。
見送る人と旅立ち人たちのの心持ちが清風を起こしているといったところでしょうか。
この語を用いる場面・季節
話としては旅立ちの文脈ですので、門出・旅立ちに際してふさわしい一語です。
日本では3月が卒業・異動の時期ですが、この季節で清風ですと少し寒々しい印象を与えます。
しかし、原典は師匠と弟子の話ですから、卒業・異動でぴったりということになります。
よく用いられる季節
一般には旅立ちの文脈を無視して、7~8月の暑い時期に涼を感じさせる言葉として用いられることが多くあります。
暑い季節と旅立ち・別れが重なった場合には最もよい一語ということになります。
竹の季節
竹そのものの季節はいろいろあり、
・春:葉を落とす季節、タケノコの季節
・秋:葉が青々しくなる季節
・冬:冬での葉が緑であることを称える季節
ということで、ほとんどどの季節でも用いられ、むしろ夏に詠まれることがまれな言葉です。
葉葉起清風では、この手薄な夏で面白いかと思います。
まとめ
すがすがしい旅立ち、交友関係の言葉にふさわしい言葉です。
今生の別れであっても、日常の別れのタイミングであっても、変わりなくさっぱりとあっさりと別れるというのが葉葉起清風の意味するところです。
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