一山行尽一山青(いっさんいきつくせば いっさんあおし)

あなたにとっての、果てしなく続く山とは

一山超えるとまた、新しい山が見えているという状況です。

苦行苦難の継続の意味、あるいは一難去ってまた一難のような意味で捉えることができそうですが、原典に照らしてその意味を掘り下げていきます。

原典

中国唐代の七言絶句の2句にある言葉です。

前後の句を踏まえることで、2句「一山行尽一山青」の意味が浮かび上がってきます。

羅鄴(らぎょう)

羅鄴(らぎょう)は唐代末期の詩人です。

終日長程復短程

一山行尽一山青

路傍君子莫相笑

天上由來有客星

書き下し文

終日(しゅうじつ)長程 復(ま)た 短程

一山(いっさん)行き尽くせば 一山青し

路傍(ろぼう)の君子よ 相(あ)い笑うこと莫(なか)れ

天上(てんじょう)由来(ゆらい)客星(きゃくせい)有(あ)り

意味

来る日も来る日も朝から晩まで旅を続けている

山を越えればまた次の山だ

道を行く旅人を世間の人びとは奇異な目でみる

私は夜空の流れ星のようなものだ

長程、短程は長い旅、短い旅の意味。旅を重ねていることを示す修辞表現です。

由来はここでは「ずっと」の意味です。

客星は、一時的に現れる彗星 (すいせい) や新星などのことです。

ここでは流れ星と意訳しました。

解説

一山行尽一山青は延々と終わらない旅を示していることが分かります。

禅では苦行を勧奨しませんので、苦しいけれど継続する努力を示す言葉とするのは宗旨から外れてしまいます。

ではどのような意味があるのでしょうか。

流れ星の例えの意味するところ

世俗的な生活をする人々にとって、雲水のような流浪の旅人は奇異の目で見られる対象で、原典では笑われるような存在とされています。

しかし、自分自身では夜空に流れ続ける流れ星のようだと、かっこよく例えています。

流れ星が流れ続けることに特別な努力を必要としないように、旅人が旅を続けることは苦しい作業でも大変なことでもない、ごく当たり前のことです。

自分にとっては苦にならないものを続ける

夜空のほとんどの星が止まってみえるなかで一瞬にして通りすぎる流れ星は特別な存在です。

同様に、日々娑婆を生きる人々は何らかの地縁、血縁のなかで定住し、定職にあって安定的に暮らしています。

そうしたなかにあっては流浪の旅人は、夜空の流れ星のように、特殊ではかない存在に移ります。

しかし、流れ星も旅人にとっては、動き続けることを常態です。

当人たちにとっては何ら特殊なことではないわけです。

結論

一山行尽一山青は、このような原典の文脈から考えれば、周囲と違っていようとも自分なりのやり方を貫き通すといった意味合いがあることが分かります。

あなたにとっての”山”=楽しい継続をしよう

人にとっては苦しい反復作業も、自分にとっては特に苦にしないものがあったりします。

好きなことであればいくらでも続けられる、という言い方もできるかと思います。

絵を描くことが嫌いな人には一枚の絵を描くことも大変おっくうな作業ですが、好きな人にとっては何枚でも、一日中でも、何晩続けようとも楽しい作業です。

旅人にとっては一山超えて、また目の前に美しい緑の山が見えたときに、ワクワクとうれしい気持ちになるのだと思います。

一山行尽一山青は、本人にとっての楽しい継続の言葉と言えます。

余談:すべて流転している宇宙と我々

ちなみに、止まっているようにみえる星も、実際には動いています。

止まって描かれる太陽自体も、実際にはダイナミックに動いています。

まとめ

人はだれしも流れ星であり、それぞれ互いに壮大なすれ違いをしている存在なのかもしれません。

どうせなら、苦行ではなく、楽しい旅を送りたいものです。

自分の“山”が何なのか、尽きることがないことにワクワクするような“山”を見つけて一つずつ超えていきたいものです。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

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