光而不耀(ひかりてかがやかず)

輝く本質は内面に秘める

うまくいかないことも多くあります。

出典

禅書ではなく、老子が出典です。

禅の文脈でも時に使われる言葉です。

老子

原文をみると、繰り返し言葉、反対語などを用いて調子を出していることが分かります。

短文ながら、深い意味があり、同時にこうしたレトリックの巧妙さがあり、一級の古典とされる理由が分かります。

其政悶悶、其民醇醇。

其政察察、其民缺缺。

禍兮福之所倚、福兮禍之所伏。

孰知其極。

其無正。正復爲奇、善復爲訞。

人之迷、其日固久。

是以聖人、方而不割、廉而不劌、直而不肆、光而不耀。

書き下し文

その政(まつりごと)悶悶(もんもん)たれば、その民は醇醇(じゅんじゅん)たり。

その政察察(さつさつ)たれば、その民は欠欠(けつけつ)たり。

禍いは福の倚(よ)る所、福は禍いの伏(ふ)す所。

孰(た)れかその極を知らん。

それ正なし。正は復(ま)た奇と為(な)り、善は復た訞(よう)と為る。

人の迷えるや、その日固(もと)より久し。

ここを以(も)って聖人は、方(ほう)なるも而(しか)も割(さ)かず、廉(れん)なるも而も劌(すこな)わず、直なるも而も肆(の)びず、光あるも而も耀(かがや)かず。

意味

いかに国を治めるかが、この一節の主題です。

政治はぼんやりとしているくらいでちょうどよく、そうすると人々には奥深い豊かさが生まれる。

政治がいちいち細かいことを言っていると、世間には緊迫した雰囲気になり互いの利を主張し合うようになる。

災いがあれば幸運も近くにあるし、幸運の近くには災いがある。

極限の災いや最高の幸運といったものは、そう多くはないものだ。

常識などない。常識は非常識にもなるし、善と思われていたものが怪しげなものにもなる。

人々はまったく分かっておらず、ずっと迷い込んでしまっている。

ゆえに聖人は自らはよく分かっていても人に対してあまり厳格にせず、自らは清らかであってもあまり人に同じことを求めず、自らは真面目であっても人にも押し付けることをしない。

優れた人物とは、内面に光輝く英知をもっていても、決して外にはその光を漏らさず、何でもないようにに装っているというものだ。

解説

上にみてきたように、いかに政治を行うかという老子の為政論の一節が「光而不耀」です。

キラキラした高い理想や杓子定規を押し付ける政治は人々を苦しめる一方、おおらかで人々の自律を尊重する政治であれば、人はよく働き国は豊かになるという考え方を示しています。

転じて、政治に限らず、我々の生き方を示してくれる言葉として用いられています。

禅は反キラキラ系

禅の美は、キラキラしたまばゆい光のなかにありません。

輝かない地味のなかに、完全でない不足のなかに、どろだらけの水たまりのなかに、本物を見出します。

そぎ落とされた素朴さに静かな美しさがあるなら、それが本質であると考えます。

近しい意味合いの禅語

多くが禅書以外の中国の古典に由来する言葉で、禅がインドから中国に渡って、その後に日本に入ってくるまでに、中継地の中国で中国独自の生活文化の影響を受けていることが分かります。

近しい意味合いの禅語

  1. 花看半開(はなははんかいをみる)
  2. 和光同塵(わこうどうじん)
  3. 和泥合水(がっすいわでい)
  4. 真味只是淡(しんみはただこれたん)

古いものの美しさ

長年の風雪に耐えて余計なものがすべて吹き飛んで残ったものの美を侘びと言います。

すべて吹き飛んで何も残らなかったなら、そこには本質がなかったということになります。

禅の審美眼は、常に本質へと向かいます。

「そのものを見よ」と言ったりします。

つまり、私たちは多くの場合、“そのもの”でない皮相や幻想を見てしまいがちということでもあります。

古い物を禅語にした言葉

古い物、ときにその用途を果たせない物を禅語として扱ったりします。

にわかに理解しづらい禅思想がここにあります。

閑古錐(かんこすい)
古い物そのものを禅語として扱う言葉

  1. 無孔笛(むくてき)
  2. 破草鞋(はぞうあい)
  3. 破沙盆(はさぼん)
  4. 没絃琴(もつげんきん)
  5. 閑古錐(かんこすい)・老古錐(ろうこすい)

まとめ

中身のない派手さに人々の目が向きがちな時世にあっても、光を秘めたような生き方を目指したくなる、味わい深い言葉です。

また光を秘めた人やものを見出す力を身につけたくなる言葉です。

静かに心を落ち着けて座れば、目に見えない光を感じることができることと思います。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

日常生活で実践する

身の回りを片付ける

禅は空理空論を避け、日々の実践を志向します。

身のまわりの片付け・清掃から始めてみてください。

最も始めやすく効果の出る実践方法です。

禅問答に挑戦する

多くの禅語は禅問答に由来しています。

興味のある方は挑戦してみてください。

座禅をする

座禅は最も基本的な”禅”の実践になります。

オンラインで座禅会に参加できる時代になりました。

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もっと短い禅語

禅語は基本的に短いものが多く、しかしながら意味が深いのが特徴です。

突き詰めると、たった一字でも味わい深い意味が生じるのが禅の世界です。

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漢字一文字のラインナップ

  1. 「一」:一とは自分自身のこと
  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
  12. 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
  13. 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
  14. 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
  15. 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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