一箭中紅心(いっせんこうしんにあたる)

人生のど真ん中を射抜く

「箭」という字が難しく、「紅心」も常用の単語ではなく、何を意味するのか分かりづらい言葉です。

しかし、一時ずつ意味を確認していくと、仏教や禅の本質を分かりやすく表現した言葉であることが分かってきます。

読み方

一箭中紅心は「いっせんこうしんにあたる」と読みます。

「一箭(いっせん)紅心(こうしん)に中(あ)たる」です。

それぞれの文字の意味

「中たる」は読みづらく、全体に少し難解な印象を「一箭中紅心」という言葉からは受けます。

禅の文脈における意味を理解するには、言葉の意味と同時に、「一」と「心」の禅ならではの含意を踏まえる必要があります。

「一箭」は一本の矢という意味

「箭」という字が難しいですが、意味は「矢」です。

一箭は一本の弓という意味になりますが、禅語は短く、この「一」には別の意味が込められています。

一箭の「一」は自分

禅語ではたびたび「一」を用いますが、総じて禅の重視する「自分自身」を意味します。

禅は「自信」の宗教であり、「自力」の宗教ですから、禅語でも自分自身を強調することが多くあり、その時に「一」を用いることがよくあります。

「一」が自分自身を表す禅語

  1. 一以貫之(いちをもってこれをつらぬく)
  2. 万法帰一(ばんぽうきいつ)
  3. 萬法一如(ばんぽういちにょ)
  4. 一滴潤乾坤(いってきけんこんをうるおす)
  5. 一華開五葉(いっかごようをひらく)
  6. 曹源一滴水(そうげんいってきすい)
  7. 一無位眞人(いちむいのしんにん)
  8. 一花開天下春(いっかひらいて てんかのはる)
  9. 一二三四三二一(いちにさんし しさんにいち)
  10. 一点梅花藥 三千世界香(いってんばいかのずい さんぜんせかいかんばし
  11. 道生一 一生二 二生三 三生万物(みちはいちをしょうじ いちはにをしょうじ にはさんをしょうじ さんはばんぶつをしょうず)

紅心は的(まと)の中心のこと

紅心も何のことか分かりづらいですが、弓矢で狙う的(まと)の中心部の赤い部分のことを意味しています。

中は「中(あ)たる」

中は「中(あ)たる」という読み方のとおり、的に当たることを意味します。

文字通り的中すること、命中することを意味します。

「紅心」とはあなたの心のこと

紅心は、的(まと)の中心部の意味と書きましたが、紅心の「心」は中心という意味であると同時に心臓、すなわち「こころ」のことを意味しています。

すなわち自分の心に弓を射るということになります。

心は禅の最大テーマの一つであり、様々な禅語で「心」という字は用いられています。

「心」という字を用いた禅語

  1. 虛其心(そのこころをむなしくす)
  2. 即心即仏(そくしんそくぶつ)
  3. 心無罣礙(しんむけいげ)
  4. 即汝心是(そくじょしんぜ)
  5. 無心帰大道(むしんなればだいどうにきす)
  6. 心外無別法(しんげむべっぽう)

本意の解説

これまで見てきたように「一箭中紅心」は、「的の中心を射抜く」というのが大まかな意味ですから、「物事の一番重要な部分に取り組め」、「色々あるなかで本質的な部分を捉えよ」という意味で理解してもよいかと思います。

しかし、途中解説したように禅の本意はもっと踏み込んだものになります。

本意:人生の的(まと)として「自分の心を射抜け」

「人が生きていく上で直面するすべての問題は自分の心の問題だから、それを射抜け」というのがこの言葉の本懐です。

人が生きていく上で抱える不安もストレスの理由について、禅では人間関係、経済的制約、家族・出自、身体的理由、外部環境の問題も一切不問とします。

すべては心の問題であり、そこを真っ先にこれを捉えよと言葉を変えて、何度も我々に伝えてくれます。

同じ意味の禅語

  1. 直指人心(じきしにんしん)
  2. 直心是道場(じきしんこれどうじょう)
  3. 心外無別法(しんげむべっぽう)
  4. 常行一直心 (つねにいちじきしんをぎょうず)

まとめ

「一箭中紅心(いっせんこうしんにあたる)」は禅語らしく、具象的・身体的な表現で抽象的な概念を表現した言葉です。

自分の心臓に弓を射るようなイメージをもって、ドキッとするような気持ちや痛みのような感覚とともにこの言葉の本意をつかめれば、この言葉を真に味わっていると言えます。

いかに自分の心と向き合うか、実践のヒントを後記しておきます。

ぜひお試しください。

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編集後記

一矢でど真ん中を射抜けと、当たらないまでもど真ん中を狙えと。

当たり前のことだが、できているだろうか。

後先なく、二の矢がない心づもりであるだろうか。

ついつい明日もあると今日あぐらをかいていないだろうか。

一点一心に集中する。

次、と考えるのは雑念・妄想である。

芳賀幸四郎の「今この一刹那を、第一義底の遂行に全力を上げよ」との解説が誠にど真ん中を射抜いている。

まずは坐れたか、自分がやるべきことからやれているか。

ついつい我々は枝葉の事柄から着手してみたりするものである、そちらの方が軽微で簡単そうだから。

次に本当のところをやればよいと。

しかし、それこそ本末転倒。的の端を狙う弓などない。

一撃一発でど真ん中を得なければ、次などない。

我々は、このいざという時に常に直面しているはずなのである。

そして往々にしてその大事と緊張のうちに直面することをしないでいる。

或いは無意識的なものかもしれぬ。いずれにしても、要するに話は簡単、瞬間ことの本質に対峙せよと。

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漢字一文字のラインナップ

  1. 「一」:一とは自分自身のこと
  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
  12. 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
  13. 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
  14. 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
  15. 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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