臥月眠雲(つきにふし くもにねむる)
苦行ではない。心地よい野宿の境地。
月がきれいな季節にふさわしい、禅の価値観が盛り込まれた禅語です。
それではまずは読み方から、次に意味を探索していきます。
読み方
臥月眠雲(がげつみんうん)と音読みする場合と、臥月眠雲(つきにふし くもにねむる)があります。
漢語調がよいか、日本語で分かりやすい方がよいか、好みの問題です。
独特の世界観を直感的に理解できるため、標題では訓読みを用いました。
解説
「月に臥し雲に寝むる」ということで、「月や雲を眺めながら、霧に包まれながら眠る」という野宿をしている情景を表しています。
禅は刻苦勉励を勧めない
修行僧が野宿を続けながら、悟りを得るために各地の名僧と呼ばれる人を訪ねて全国を周遊しているような情景を想起して、苦難に負けずに継続努力するという解釈があります。
しかし、禅では苦行を認めていません。
悟りに苦行は要らないとするのが禅
禅の悟りは、頓悟(とんご)と呼ばれ、今すぐに・誰でも得ることができる点に特徴があります。
したがって、苦行はもちろんのこと、あちこち教えを求めてさまよい歩くこともよくないこととされます。
つまり、「苦難に負けずに継続努力する」という解釈は禅の本義に反することになります。
では、どのようにこの語を解釈すればよいでしょうか。
すべてをなくしたホームレス生活は楽しいという境地
禅ではいろいろなものを否定していきます。
「無」という禅の基本概念に基づいて、なければならないと思っていた私たちの常識を打ち壊してくれます。
無礙、絶学、無着、物外。
ないこと、そして少ないこともよいこととされます。
少ない方がベター、ないのはベスト
私たちは日ごろ、モノやお金が増えること、知識が増えること、多いことはよいと考えています。
禅の引き算の考え方では、余計なものはない方がよいと考えます。
禅ならではシンプルなデザイン・意匠は、この基本概念に基づいています。
「本来無一物」という語にこのことは端的に表されています。
禅の理想の生き方
禅では何も持たない方がいいわけですから、持ち物も変える家もないのが理想の生き方になります。
はだかの布袋さんが禅画として描かれることがあります。
布袋さんはほぼ裸のような恰好で、ふらふらの街を歩き、物貰いをして暮らしていたとされています。
そのような生き方は禅の理想になります。
橋の下で暮らした名僧
寺での修行を終えた僧は、特に臨済禅では「聖胎長養」(しょうたいちょうよう)といって、乞食として農夫として無碍自在に生きることがまた修行であると考えられています。
大燈国師は京都の橋の下で、関山は美濃で畑を耕して過ごした時期があったと伝えられています。
放浪の意味
禅の理想から考えると同じように放浪するとしても、教えを求めてさまよい歩くのではなく、何も持たずに悠々と生きることがあるべき姿ということになります。
月や雲が見えるような状態で眠るということは、当然屋根もない野宿の一夜ということで風雨・寒さにさらされ、ひどい状況です。
こういう苦しい状況を頑張るのではないというのが禅の悟りの境地ということです。
美しい月を眺め、流れる雲を見ながら、大草原のど真ん中で一人美しい自然とともに眠れることに幸せを感じるというのが、禅らしい状況の捉え方ということになります。
身なりも気にせず、何にも執着せず、世間体を気にせず
まったくの無の境地を、そこで感じられるかということになります。
「月」は禅では時に“悟り”のメタファーとして用いられます。
逆に「雲」はそれをさえぎる存在です。
大自然で一人空を仰いで眠る心持ちが、解決すべき不快でみじめな状況なのか、気持ちの良いすがすがしい一夜なのか、後者であれば、“月”の光はその人を明るく照らし、雲は流れ消えていくということになります。
まとめ
禅ならでは考え方に基づいた、情景としても字の語感もかっこうのいい言葉です。
バックパッカーやソロキャンパーにも似合う言葉だと思います。
どうぞ苦行をすることなく、すがすがしい心持ちでお過ごしください。
日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。
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