「自灯明」(じとうみょう)の意味:自らが明かりとなって世界を照らせという啓蒙の言葉

読み方と意味:自分を頼れ

「じとうみょう」と読みます。釈迦最後の言葉と言われています。意味としては自ら明かりを灯せということで、裏を返せば、「私はあなたを照らすことはない」という厳しい一言でもあります。つまり、自分で頑張れという宗教としては元も子もない話なのですが、釈迦としては何か立派な経典や仏像を拝んで成就するものなどない、自分を頼れと言っていたというとても大事な事実が分かります。

自信と自由という仏教、そして臨済禅の根本

時代を下って、臨済宗の臨済和尚は「自分自身に自信を持て、自信がないと自由になれない」と言っています。釈迦~禅宗の系譜は決定的に自力重視の宗教であり、偶像崇拝に否定的であり、経典軽視であり、苦行でどうにかなるものではないという立場を採ります。

”病在不自信處。爾若自信不及,即便忙忙地徇一切境轉,被他萬境回換,不得自由。”

原因は自己を信じないところにある。きみたちが自己を信じきれないから、幻覚のままにあたふたと運ばれ、よろづの場面に振りまわされて、自由になれないのだ。

爾欲得識祖佛麼。 祇爾面前聽法底是。學人信不及、便向外馳求。 設求得者、皆是文字勝相、終不得他活祖意。

きみたちは達磨がどんな人なのか、知りたいと思うか。今私の面前で説法を聞いている君たちこそ、それなのだ。君たち自身が自己を信じきれないから、外に求めまわるのだ。外に求めてたとい得られたとしても、みな文字や言葉ばかりで、けっして活きた達磨の思想ではない。(衣川賢次訳)

自信と自主という仏教・禅の根本原理
「自信を持て!自分の力でやる抜け!」という自己啓発が仏教・禅の根本原理

「自信がないと自由になれない」という部分は非常に重要で、”自由”という言葉の意味が分かってきます。文字通り、自分自身に由(よ)るということです。当たり前の話ですが、自分に自信がないと自分に頼ることはできません。臨済の自由は、勝手気ままという意味ではなく、自立・自主という意味で使われていることが分かります。

意味の変遷:自分で頑張れ=自由だったが・・・

”自由”の意味が「勝手気まま」になってしまった

自由というと、今日「勝手気まま」という意味合いでの使われ方が多い気がします。明治以降、英語のFreedomやLibertyの訳語として自由が用いられました。Freedomは圧政や束縛に対する”解放”という別の言葉で置き換えられるかと思いますが、Libertyは自由の一択ですが、当初は”自主”という訳もあり、この方が本来的と考える人も多くいました。有名なところでは西周などです。西周は「自主を採る、自由は自主に成るの説」とし、任意放蕩と捉えられることを恐れたと言われています。

自由とは自主的であるということ
自由とは任意放蕩とは全く異なるという明治知識人の慧眼があったが・・・

自主の方が本来の意味に近い

Libertyを自主と訳してみると、意外とスッキリ理解できる部分があります。よく自由と責任は対の概念と言われますが、自主と責任と考えてみれば当たり前のことと理解できます。自分で自主的にやっているのだから、自分で責任取ってねという話です。

Libertyを自主と訳してみると、意外とスッキリ理解できる部分があります。よく自由と責任は対の概念と言われますが、自主と責任と考えてみれば当たり前のことと理解できます。自分で自主的にやっているのだから、自分で責任取ってねという話です。

自由と自己責任
自主的なものが自己責任であることは当然

宗教の自由も、言論の自由も、報道の自由も、宗教は自主、言論は自主的なもの、報道は自主でお願いします、としたほうが明確です。宗教(言論、報道)は人から押し付けられるものではなく、自分の内在的動機に基づくものだから、自主的なものであり、これは妨げられない。自由(自分に由るもの)です。ということです。

自由という言葉の大衆化

明治に自由民権運動という政治・社会運動がありましたが、自主民権運動としたら雰囲気が違って聞こえます。西周の懸念や自主という訳語を使うべきと考えていた理由が分かります。自由が大衆に理解され、良くも悪くもポップになると「好き勝手やっていい」という意味合いが強くなります。

自由という言葉の意味
自由という言葉は大衆化し、曲解されている側面がある

灯火という隠喩のルーツ

自主の女神像が世界を照らす

自由の女神を、自主の女神と訳したらどうでしょうか。面白いことにこの自主の女神は灯火を掲げています。まさに自灯明です。左手には独立宣言書、まさに自主・自立のための文書です。英語ではStatue of Libertyですから、愛想はないですが自主の銅像でも訳としては良さそうです。正式名称はLiberty Enlightening the worldで、「世界を照らす自由」と訳されますが、これはかなり日本語として理解しづらい訳語です。「自由は世界を照らす」の方が良さそうですが、これまでの議論を踏まえると、「自主的であることが、世界に光を与える」が良さそうです。Enlightenは啓蒙するという意味で、啓蒙主義はEnlightnmentの訳語です。

自由の女神の正式名称
世界を照らすのは自主の精神

自灯明と啓蒙(Enligntnment)の重なり

面白いことに、

自灯明:自分に自信を持って、自分を灯火にして世界を照らしていけ

Liberty Enlightening the world:自主的であることが、世界に光を与える

とほとんど同じ意味であり、光や灯火といった例え方になります。

光を好む近代西洋
光に着目する考え方が西洋の思想や美術において特徴的

実は自灯明の出典は大般涅槃経で、そこには灯火ではなく、自らを洲(しま)とせよとなっていまいます。自灯明という言葉は意外と新しく明治以降で、西洋啓蒙思想の影響を受けているのかもしれない。

自灯明は西洋由来である可能性

book keepingがその音を取って簿記になったり、galleryが画廊になったりというような和風テイストの舶来語があります。オクラはエジプト原産でスペルはokraだそうです。花の勧奨用から食用に転じたのは1970年代とごく最近のことだそうです。

何となく日本語のハマりの良さから日本語ないし漢語由来のような言葉で実際は英語由来の言葉としては、

・時は金なり(Time is money)
・一石二鳥(To kill two birds with one stone)
・鉄は熱いうちに打て(Strike while the iron is hot)

などがあります。自灯明は、あまりにも啓蒙主義や自由の女神のメタファーと重なりが強すぎるので、仏教の原典にある「自らを島とせよ」を明治時代に西洋啓蒙思想を踏まえて、「自らを灯火とせよ」に創作した可能性があります。

自灯明の語源は
言葉や思想は世界で近似していくように思える。洋の東西といった議論は視野が狭窄している。

まとめ

自灯明がいかに自主的な意味を持つ言葉かを見てきました。自由の原義には近いですが、今日使われている意味での自由ですと少しずれていってしまうかと思います。自分自身が灯火となり、世界を照らすような主体性、これが自灯明の意味です。原典では灯火ではなく、島(洲)という例えを使っていましたね。そういえば自由の女神もリバティ島という小さな島に立っています。自分の島に立って、自主の炎で世界を照らす、これぞ自灯明の本懐です。

世界を照らす自主の精神
暗闇を照らすという啓蒙主義の象徴。自灯明という言葉は仏教×西洋思想のハイブリッド。
監修者:「日常実践の禅」編集部

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