金毛獅子(きんもうのしし)の意味

金毛の獅子というはいわゆるライオンのことです。

最初に聞いたときは随分と幼稚な禅語のように思いましたが、意味が悠々と闊歩する禅者という意味であることを理解すると、何となくその雰囲気が掴めてきます。

この語のイメージ

無門関序文には「透得此關 乾坤獨歩」とあります。

意味は「この禅問答を通過できたならば、宇宙を一人歩くことができる」という意味です。

このように禅には悟りを開いた者の凛然としたさまを謳う言葉があり、この金毛獅子はそれを具象的に表現した言葉ということになります。

臨済録においても、似たような記述があります。

読み下し文

切要求真正見解  向天下横行

書き下し文

切に真正の見解を求取して 天下に向かって横行する

意味

本当の見地をつかんで、天下を堂々と歩こう

金毛獅子に関連した言葉

金毛獅子不跨地

「金毛の獅子は跨地せず」と読みます。

跨地せずは身構えないの意味です。

金毛の獅子はリラックスしていて、力んでいないと言っています。

実際先ほどの臨済録には次のような続きがあります。

読み下し文

無事是貴人

但莫造作

祇是平常

書き下し文

無事これ貴人

ただ造作すること莫れ

ただこれ平常なれ

意味

何ともないのが優れた人だ

計らいをしてはならない

ただあるがままであればいい。

禅の考える理想の姿というのが分かってきます。

無事是貴人も禅語として用いられることが多いですし、この「平常」を用いた平常心是道も有名です。

平常心是道の禅問答でも、似たことを言っているので確認してみてください。

ライオンは平然としている

平常心是道は、茶道・書道のような芸事でも用いられますが、剣道や柔道のような武道において用いられます。

人と争う武術が平常心是道では勝てない気もしますが、平常であることと金毛の獅子(ライオン)であることは同義と禅では捉えるわけですから、人と戦う剣道・武道の目指すところが平常心是道でよいわけです。

ライオンのように勇敢に強くとは考えず、ライオンのように平然としているのが強いと考えるわけです。

金毛獅子変成狗(きんもうのしし へんじていぬとなる)

「金毛の獅子、変じて犬となる」と読みます。

金毛の獅子がそのまま、金毛の獅子のままあることはそれはそれでよいのですが、それよりもさらに理想的な状態があると禅では時に考えます。

乞食という理想

禅の理想的な禅僧の姿は、凛然と仁王立ちして人々を導くようなものではなく、何も持たずぼろをまとって人に物乞いをする乞食です。

ライオンが市中を歩いていては人々から恐れられて、誰も近寄ってはきません。

禅では、山中の禅寺で俗世界を離れて静かな修行のうちに悟りを開きそこに暮らすという理想を持ちつつも、悟りを得たならばそれを一般社会で実践してこそ本来であると考えることがあります。

同義の禅語

  1. 坐一走七(いちにざししちにはしる)
  2. 坐水月道場(すいげつどうじょうにざす)
  3. 小隠隠陵藪 大隠隠朝市(しょういんはりんそうにかくれたいいんはちょうしにまじわる)
  4. 動中の工夫は静中に勝ること百千億倍す

俗世界の塵にまみれて

その時の姿というのは、金毛の輝きを失っていて当然で、俗世界の塵にまみれて光を失っていることになります。

同義の禅語

  1. 和泥合水(がっすいわでい)
  2. 和光同塵(わこうどうじん)
  3. 光而不耀(ひかりてかがやかず)

俗世界の塵にまみれて

閑古錐(かんこすい)

したがって、禅では古びて使えない道具を禅語とすることがありますが、これはこういう禅の理想の姿の例えとして用いられます。

同義の禅語

  1. 閑古錐(かんこすい)・老古錐(ろうこすい)
  2. 破沙盆(はさぼん)
  3. 破草履(はぞうあい)
  4. 無絃琴(むげんのきん)・没絃琴(もつげんきん)

金毛獅子変成鼠(きんもうのししへんじてそとなる)

犬でなく、ネズミになるとする場合もあります。

獅子吼(ししく)

禅では文字による伝承や言葉による理解を基本的には認めていません。

ゆえに禅の指導である禅問答は、その言葉がとても短く、理解が難しいことがよくあります。

そうした最も短い指導の言葉の究極が「喝」です。

およそ意味としては「違う」「しっかりしろ」「元気を出せ」といった意味合いかと思います。

そもそも掛け声ですから、その言葉の意味というのはありません。

この掛け声を連発していたのが、臨済です。

臨済に限らずとも禅の指導者の短い励ましの一言を、金毛の獅子の吠えた声に例えて獅子吼と読んで大切にします。

有時一喝如踞地金毛獅子

「あるときの一喝は金毛の獅子踞地するがごとし」と読みます。

今度は金毛の獅子が踞地してしまっています。

ここでの踞地は、獲物を狙って身構えている様子を表わしています。

臨済の言葉です。

「喝」を唱える直前の臨済を捉えた言葉とするならば、ドラマチックな描写として味わいが増します。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

おススメの禅語

あなたの日常実践を励ます禅の言葉をご紹介します。

勇気をくれる禅の言葉

始める勇気、続ける勇気。自信を持って頑張れ!という禅の言葉をまとめました。

人気の禅語

禅の世界に興味を持たれた方は、こちらもチェックしてみてください。

もっと短い禅語

禅語は基本的に短いものが多く、しかしながら意味が深いのが特徴です。

突き詰めると、たった一字でも味わい深い意味が生じるのが禅の世界です。

ぜひこちらもチェックしてみてください。

漢字一文字のラインナップ

  1. 「一」:一とは自分自身のこと
  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
  12. 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
  13. 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
  14. 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
  15. 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
  16. 0字の字

日常生活で実践する

身の回りを片付ける

禅は空理空論を避け、日々の実践を志向します。

身のまわりの片付け・清掃から始めてみてください。

最も始めやすく効果の出る実践方法です。

禅問答に挑戦する

多くの禅語は禅問答に由来しています。

興味のある方は挑戦してみてください。

座禅をする

座禅は最も基本的な”禅”の実践になります。

オンラインで座禅会に参加できる時代になりました。