「紅炉一点雪」の意味:一瞬で消え去るはかないもの

「溶けて消え去らないものがある」が本義

(こうろいってんのゆき)

「紅炉一点雪」は、火にかかってあっという間に消え去ってしまう一片の雪を表わした言葉です。

はかなく美しいさまがイメージできますが、禅ではその姿かたちに捕らわれないようにという意味で用いられます。

それでは、よく用いられる意味や例文などもお示ししながら解説していきます。

読み方

紅炉一点雪

「こうろいってんのゆき」と読みます。

禅語として用いる場合にはこの五字「紅炉一点雪」を用いることが多いですが、この後確認するように原典は「紅炉上一点雪」です。

この場合には、「こうろじょういってんのゆき」と読むことが多いです。

「こうろのうえのいってんのゆき」と読んでも問題ありません。

出典

『碧巌録』に収録されています。

碧巌録は禅問答(公案)をまとめた宋代の禅書です。

全部で100則ある中の第69則にこの語はあります。

禅語の出典経路

禅語の出典にはいくつかのパターンがありますが、「紅炉一点雪」は正当な禅の教本に由来する生粋の禅語といえます。

  1. 禅書に由来するもの
  2. 詩句から取り出したもの
  3. 故事成語から取り出したもの
そのため、禅語に時に生じる多義性(意味がいろいろ考えられる)といったことがほとんどありません。

原文

炉は茶室の炉のイメージですが、囲炉裏やコンロなどを想像していただいても構いません。

いずれにしても紅炉ですから、火がついているカッカと熱い状態の想定です。

そこに一片の雪が落ちて、あっという間に溶けて消え去ってしまいます。

それだけのことを意味した語ですが、原典には文脈があるので、それを確認していきましょう。

読み下し文

垂示に云く、
啗啄の処なき、祖師の心印、かたち鉄牛の機に似たり。
荊棘の林を透る、衲僧家、紅炉上一点の雪の如し。
平地上七穿八穴なることは則ちしばらくおく。
寅縁に落ちざるは、また作麼生。試みに挙す看よ。

意味

難解で手がかりが掴めない達磨の心は、伝説の鉄で鋳た牛のように固い。
一方で、茨の林を突き抜けていく修行僧は、炉に落ちた雪のように後には何も残さない。
日常生活に当たはまるものではないことはさておき、
さて、この強さと脆さとはどういうことか、考えてみたまえ。

解説

原典では、祖師(達磨大師)の教えが確たるものとして脈々と受け継がれていることと、修行僧の大変な努力も後には何も残らないというコントラストが描かれています。

つまり、目に見えているものは消え去ってしまったりするけれども、大切なものは目に見えずに残っていくといっています。

大切なものは目にみえない

この意味で捉える場合には、「没蹤跡」(もつしょうせき)という禅語と同じ意味ということになります。

没蹤跡は、「足跡を残さない」という意味です。

この語は従容録74則にあり、他の語もすべて同じ意味のため、理解しやすいかと思います。

没蹤跡(もつしょうせき)
断消息(しょうそくをたつ)
白雲無根(はくうんこんなし)
清風何色(せいふう なにいろぞ)

碧巌録でも達磨大師の「心印」としてヒントを与えてくれているように、具象的なモノは重要ではなく、「心」こそ重要であると言っていることが分かります。

その他の意味

その他の意味①

この「紅炉上一点雪」ないし「荊棘の林を透る、衲僧家、紅炉上一点の雪の如し」の意味をとって、後には何も残さないことの美学としてこの言葉を用いることがよくあります。

例文:後には何も残さない

あの方は紅炉一点雪と言った感じで、生前にすべて自分の身辺を整理し終えて逝ったそうだ。

その他の意味②

一片の雪が火にかかって消えてしまうさまを、そのまま短時間でなくなってしまうはかないもの、瞬間的ともいえる短さで消えていったものの例えとして用いることがあります。

例文:ただ、“はかなさ”や“短命”を表わす言葉として

昨シーズン一気にスター選手になった彼だが、今シーズンの怪我がひどく、今年でもう引退だそうだ。紅炉一点雪とはこのことだ。

日常生活で実践する

身の回りを片付ける

禅は空理空論を避け、日々の実践を志向します。

身の周りの片付けから始めてみてください。

禅問答に挑戦する

多くの禅語は禅問答に由来しています。

興味のある方は挑戦してみてください。

座禅をする

座禅は最も基本的な”禅”の実践になります。

オンラインで座禅会に参加できる時代になりました。

「雪」の禅語

禅語では度々「雪」を用います。

特に多いのが、人生の厳しさを表わす「冬」の象徴として「雪」を用いる場合です。

「雪」を用いた禅語

  1. 雪竹(せっちく)
  2. 瑞雪満地 (ずいせつ ちにみつ)
  3. 銀椀裏盛雪(ぎんわんりにゆきをもる)
  4. 梅花和雪香 (ばいかゆきにわしてかんばし)
  5. 雪晴天地春 (ゆきはれて てんちはるなり)
  6. 夏有涼風冬有雪 (なつにりょうふうあり ふゆにゆきあり)
  7. 好雪片片不落別処 (こうせつへんぺん べっしょにおちず)

まとめ

以上、禅語「紅炉一点雪」の解説でした。

禅の本懐としては、はかないさまや、何かを残す・何も残さないなどの目に見えるかたちにとらわれることなかれ!といっています。

心の目を大切に、今日も良き日をお過ごしください。

お読みいただき、ありがとうございました。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

引用・参考文献:
・『一行物』(芳賀幸四郎、淡交社)
画像の一部:
・「pixabay
・「photoAC

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漢字一文字のラインナップ

  1. 「一」:一とは自分自身のこと
  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
  12. 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
  13. 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
  14. 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
  15. 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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