推枕軒中聴雨眠(すいちんけんちゅう あめをきいてねむる)

世の中の移ろいに人間関係を気を止めず、とりあえずー休み、ひと休み

出典

晦機元煕(まいき げんき)

人間萬事塞翁馬

推枕軒中聴雨眠

有名な人間萬事塞翁馬の後節がこの言葉です。

人間萬事塞翁馬のエピソードの出典は『淮南子』人間訓ですが、実際に人間萬事塞翁馬という言葉は出てきません。

出てくるのは元の時代の臨済宗の禅僧、晦機元煕(まいき げんき)の書です。

晦機(まいき)は、南宋末期から元代にかけて活動した中国臨済宗の禅僧です。

書き下し文

人間(じんかん)万事塞翁(さいおう)が馬

推枕(すいちん)軒中(けんちゅう)雨を聴いて眠る

人間萬事塞翁馬の「人間」は、「にんげん」と読まずに「じんかん」と読むのが禅では本来とされます。

同様に人間という単語が用いられている禅詩の一説「便是人間好時節」も「すなわちこれじんかんのこうじせつ」が正しいとされます。

つまり、人間萬事塞翁馬の人間は、ヒト、人々、人類、という意味ではなく、人間関係、世間、世俗を生きることという意味の「じんかん」であるとされています。

意味

娑婆を生きるというのはすべてにおいて、「塞翁の馬」のエピソードのとおり、良いことと悪いことは表裏をなす存在だ。

小さな部屋で枕を敷いて、雨音を聴きながら眠ることにしよう。

解説

今日はこの有名な前節、人間萬事塞翁馬ではなく、あまり用いられることのない後節の推枕軒中聽雨眠に注目していきます。

人間萬事塞翁馬といういわば故事成語に対して、推枕軒中聽雨眠はいかにも禅僧が詠んだという感じのさっぱりとした心持ちを表しています。

浮き沈みのある人生にどう対峙するか

人間萬事塞翁馬は一般には「人生よいこと・悪いこといろいろあるから、いちいち落ち込まずに元気を出して」といった意味で用いられます。

晦機もほど同様の意味で、当時一般に流布していたこのエピソードを元に、この前節を創作したわけですが、後節では「雨中の小屋で座布団をまくらにしてひと眠り」としています

昼寝するという結論

人間関係のゴチャゴチャした仕事をさておき、「雨音を聞きながら昼寝としよう」という泰然自若とした態度がなんともふてぶてしくも頼もしい一節です。

前節と後節のコントラスト

人間萬事塞翁馬は、人のやることというのは良かったり悪かったり色々で、捉え方によっても色々だと、世俗社会の移ろいの早さや不安定さ、そうしたものに人というのは一喜一憂振り回されていることを示していまう。

一方、推枕軒中聽雨眠では、太古より変わらない雨という現象、雨音の美しさに耳を傾けながら、自分の疲労した精神や肉体に休息を与えるという自分を大切にするさまを示しています。

すがすがしくあきらめる

物事の吉凶を気にせず、うまくいっていないことを何とかしようと執着することもせず、ただまずは自分の健康を第一として、娑婆の世話事を嫌って自己主義ともいえる態度でありながら、自然な成り行き、大いなる導きに一切をゆだねるという達観が見て取れます。

仏教では、あきらめは悪いことではない

禅とビジネスパフォーマンス

ある種の諦めの態度のようですが、仏教では諦めの達観は諦観と読んで、ヨシとされています。つまり、正確に物事を認識することが諦観であり、どうにもならないことをクヨクヨしたり、何とかしてやろうと執着することはよろしくないと考えます。

翻って、ただボーと雨を聞きながら眠りに落ちるさまは、好事不如無であり、山中無暦日、無著、寂然不動、平常心といった禅語とも近接した態度と言えます。

この語の季節

雨の多い梅雨の季節はまさに、推枕軒中聽雨眠にふさわしい季節と言えます。

雨が降れば農作業はできませんから、とくにがっかりもせずに、推枕軒中聽雨眠でよいわけです。

雨が降ったらどうするべきか

晴耕雨読という言葉がありますが、雨が降れば読書というこの語に対して、雨が降れば昼寝という思い切った態度が、実に痛快で禅らしさを感じます。

すでに植えた苗の成長を促してくれている雨でもありますし、こちらは体を休めるよい休息日というわけです。

禅の生き方

世俗の雲行きを気にせずに悠々自適に暮らすというのが本来の文脈です。

時に社会活動・世間の付き合いに疲れたときは、少し距離を置いて自宅で推枕軒中聽雨眠と決め込むのはとても良いことだと思います。

真仏坐屋裏(しんぶつおくりにざす)といって、心を散逸して外側に大事を求めない姿勢が禅らしい態度と言えます。

坐看雲起時(ざしてみる くもおきるとき)などの禅語も想起されますね。こちらは雲の多い夏の季節がよさそうです。

まとめ

坐す、すなわち座禅をするのではなく眠るとしているところが、この推枕軒中聽雨眠の面白いところで、痛快な開き直りが感じられ、また座禅以上に腹の座った覚悟すら感じることができます。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

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