坐一走七(いちにざししちにはしる)の意味

静と動を大事にする禅の言葉です。

沈思座禅することと、日常生活・実社会で精力的に活動することをともに大切にする禅の宗風が表されています。

坐一走七の意味

「いちにざししちにはしる」と読みます。

「ざいちそうしち」と読んでもよいですが、この語に関しては訓読みでも禅味を失わずに、意味も理解しやすいのでよいかと思います。

禅における「坐」は座

禅における「坐」は座禅であり、ただ座るという意味や休憩するの意味では用いられません。

両者は意味として近しい部分もありますが、禅語で用いられている「坐」は、「どっかりと腰を下ろして座禅をしているさま」と捉えるのが一般的です。

禅における「一」は「本来の自分」

次に「一」も一回の意味ではなく、禅の文脈での「一」は「本当の自分」という意味で用いられます。

すなわち、「一に坐す」とは、「どっかりと腰を下ろして座禅をし、本当の自分と向き合っている様子」を表わしています。

「走」は「坐」との対比。すなわち、、、

どっかりと腰を下ろして座禅をしている「坐」と対比的に用いられているのが「走」です。

座禅は禅の文脈では、自室、山中、山寺などの静かな環境で座るものとされます。

「走」は日常生活をがんばること

「走」はこれに対して、座禅以外に禅が重視する「日常生活の一切」を表わしていると捉えます。
禅では本を読んで勉強することは好まれず、また勧奨される座禅もそれだけに終始することはよいこととされず、禅問答による師匠との対話もそれは修行の一部に過ぎないと考えます。

日々の生活、ごく基本的な歩くこと、ご飯を食べること、ふとんを畳むことなどの当たり前の生活雑事を全力で行うことを大切にするのが禅の特長です。

すなわち「走七」とは、そうしたさまざまな生活雑事を力を全うして行うことを表しています。

「ご馳走」の語源と同じ意味で「走」を捉えて、あれこれと手を動かし足を動かし、料理や掃除、洗濯などをこなすさまが「走七」です。

「走」は実社会で頑張ること

さらに「走七」にはもう一つの意味があります。山寺のような理想的な静かな環境で禅を分かったつもりでは、半人前で、実社会に出て市中にあってそれを実践するなり説くなりしてこそ一人前という考え方です。
この宗教的理想空間においける成就と、一般社会における成就を並列でどちらも重視する点が禅の特長とも言えます。

坐一走七の本意

つまり、坐一走七とは「静かな環境を用意してどっかりと腰を下ろして座禅をし、本当の自分と向き合っていいつつも、逆に雑音にまみれ人に気を使いながら過ごす日常生活や私利私欲にあふれる一般社会において禅の働きを実践すべきである」という意味になります。

実世界での実践を目指す禅語

  1. 坐水月道場(すいげつどうじょうにざす)
  2. 小隠隠陵藪 大隠隠朝市(しょういんはりんそうにかくれたいいんはちょうしにまじわる)
  3. 動中の工夫は静中に勝ること百千億倍す

七走一坐(しちそういちざ)?

七走一坐(しちそういちざ)という言い方もあり、この言い方の方が広く流布しているようです。

七走一坐は出典不明

坐一走七、七走一坐ともに明確な禅書の特定はできないものの、坐一走七は大徳寺と品川東海寺の住持を務めた清巌宗渭(せいがんそうい)の「坐一走七」の墨蹟が残っているそうで、こちらの方が古くから使われている言葉なのではないかと思います。

清巌宗渭(1588-1662)は茶道千家の3代目千宗旦の禅の師匠であり、千宗旦は千利休の処刑後、風前の灯となっていた千家ならびに茶道の窮状を何とかこらえ、その後の発展の礎を築いた人物です。

清巌宗渭、千宗旦の交わりについては、「明日不期」という禅語につながる遅刻にまつわるエピソードが有名です。このエピソードからは「明日不期」だけでなく、裏千家の茶室「今日庵」の名称の元となります。

大徳寺は臨済宗大徳寺派の大本山であり、また東海寺は徳川家光が沢庵のために立てた大徳寺派の重要な寺であり、これらの住持を務めた清巌宗渭が当代随一の禅僧であったことが分かります。

七走一坐では語順がおかしい

七走一坐(しちそういちざ)と漢語読みしますが、中国語の語順としては違和感があります。

走七坐一のようにしないと、語順としておかしくそのため、訓読みをままなりません。

七走一坐では「しちにはしり、いちにざす」といった読み方ができません。

「七回走ったら一回座れ」と理解したいための語順

七走一坐は、「七回走ったら一回座れ」と解釈され、忙しくしていたら少しは休憩しようという意味合いで用いられることが多くあります。

正確な経路は分かりませんが、坐一走七が俗解されていく過程において七走一坐に語順が置き換わったのではないかと思います。

「七回走ったら一回座れ」という俗解が定着するのにあわせて、語順が変わって「七走一坐」に転じて定着したと考えられます。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

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突き詰めると、たった一字でも味わい深い意味が生じるのが禅の世界です。

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漢字一文字のラインナップ

  1. 「一」:一とは自分自身のこと
  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
  12. 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
  13. 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
  14. 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
  15. 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
  16. 0字の字

日常生活で実践する

身の回りを片付ける

禅は空理空論を避け、日々の実践を志向します。

身のまわりの片付け・清掃から始めてみてください。

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禅問答に挑戦する

多くの禅語は禅問答に由来しています。

興味のある方は挑戦してみてください。

座禅をする

座禅は最も基本的な”禅”の実践になります。

オンラインで座禅会に参加できる時代になりました。