「松樹千年翠」(しょうじゅせんねんのみどり)の意味:冬の緑をたたえる松に、永遠の生命力をみる

「松寿千年翠」は正月の掛物で使われます。

松は、寒い冬に緑の葉のままで強い生命力の象徴であるため、正月のめでたさを祝うにあたって用いられます。

同じく冬の緑を喜ばれて竹、また真冬に咲く梅と合わせて、松竹梅が冬、そして正月に愛される植物です。

元は「樹」→「寿」

元々は「松樹千年翠」ですが、正月の掛物に使われることが多いため、「樹」に「寿」を当てて用いているのがこの「松寿千年翠」の緑です。

「寿」は「ことぶき」と読みますが、祝うという意味の「ことほ(ぐ)」とも読みます。
また「ひさし」や「いのちながし」と読むこともあります。

元は不易を謳う言葉

「松樹千年翠」は禅林句集に「松樹千年翠 不入時人意」と出てきます。

「不入時人意」は、「時の人の意に入らず」と読みます。

「松樹千年翠 不入時人意」の意味はは、「松は四季を問わず、また時を経ても変わらず緑をたたえている。しかし、人が気にすることはほとんどない」です。

元は「松柏千年青」→「松樹千年翠」

「松寿千年翠」→「松樹千年翠」とさかのぼりましたが、さらに元があって、「松樹千年翠」は、「松柏千年青」が元になっていると言われています。

「松柏千年青」は、禅書『続伝灯録』での禅問答に由来します。

松柏は柏槙(びゃくしん)のことで、いわゆる「松」ではありません。

そして「翠」が「青」になっています。

続伝灯録

但得本莫愁末

喚恁麼作本

喚恁麼作末

松柏千年青

不入時人意

牡丹一日紅

満城公子酔 

書き下し文

但だ本を得て 末を憂えること莫れ

何を喚んでか本となし

何を喚んでか末となすや

松柏千年の青

時の人の意に入らず

牡丹一日の紅

満城の公子酔う

意味

石田法薫は、宋の時代の禅僧です。

(石田法薫)

但だ本を得て、根本が得るべきで、末節にとらわれてはいけない。

(弟子)

何を根本といい、何を末節というのですか。

(石田法薫)
柏槙は四季を問わず、また時を経ても変わらず緑をたたえている
しかし、人が気にすることはほとんどない
牡丹が今日赤い花を咲かせた。
都の貴人が大いに喜んでいる。

本来の意味

すなわち根本とは不変のもののことを、末節とは皮相の流れ行くものを言っています。
柏槙は禅寺にありますから、山中の禅寺の教えを根本と言っているのであり、
満城の公子は、都会・政治・世俗をうつろいやすい末節と言っています。

使い方

正月の言葉

正月の言葉として使うことが多いかと思います。冬の祝い事にふさわしい言葉です。

人の成功に際して

人の成功に際して地道な継続を促す言葉として使ってよいかと思います。その場合、牡丹一日紅とセットで、牡丹一日紅を倒置されて、

牡丹一日紅 松柏千年青

として使った方が分かりやすいかと思います。試合に勝って称賛の最中にいる選手に、そうした喧噪をさておき、さあ今日も基礎練習から大切にやっていこうと声をかける言葉です。

(例)牡丹一日紅 松柏千年青 一層地道に鍛錬されたし

凡事徹底、積み重ねよ

かなりハイコンテクストで、説明が必要になります。ここでも倒置して、

牡丹一日紅
満城公子酔
松柏千年青
不入時人意

とした方が、意味が伝わるかもしれません。

松柏千年翠 凡事徹底、積み重ねよ

やるべきこと、当たり前のこなしていくこなしていくという地道を求める言葉です。

まとめ

お正月のおめでたい言葉から、一過性の注目や末節の議論を避ける言葉まで3つの意味を探索してきました。牡丹が加わることで、意味が大きく拡がりました。言葉は常に多義的ですから、正解は有りません。状況に応じて、使ってみていただければと思います。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

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