日出乾坤耀(ひいでてけんこんかがやく)
必ず夜明けは訪れる。回復し人々に力を与える存在になれという禅語
月の宗教とも言えるほど太陽よりも月を比喩として用いることの多い禅では、珍しい太陽をテーマとした禅語です。
出典
まずは出典から確認していきます。
古尊宿語録
2節からなっています。
日出乾坤耀
雨収山岳青
書き下し文
後の節の方が有名かと思います。
日出(い)でて乾坤(けんこん)輝く
雨収まって山岳(さんがく)青しbr>
意味
日が昇って天地が輝きだした
雨が止んで山々がすっきりと青くみえる
禅の好み
禅では月が好まれるので、太陽が取り上げられることはあまりありません。
日出乾坤耀も日出乾坤耀 雨収山岳青と連句になっていて、どちらかというと雨収山岳青の方がよく禅語として用いられます。
雨収山岳青の方が好まれるが
太陽が昇ってきて天地が輝くという情景が、禅味に乏しく、翻って雨収山岳青は、禅の好む“山”を用いていて雨が止んですっきりと見える山の風景が煩悩から抜け出した悟りの境地と重なって好まれるのだと思います。
日出乾坤耀も魅力的な禅語
しかし今日は人気のない方の日出乾坤耀を取り上げたいと思います。
太陽は最も根源的なエネルギーであり、ここに神や大いなる力を感じ、崇める信仰や宗教が多くあります。
禅は月・陰の宗教だが
禅の好む月も、太陽がなくては輝くことはできません。
禅はどうしても根源的な力である日よりも反射する立場の月、交易や賑わいの海より隠居の場としての山を好み、若者というよりも年寄り、元気いっぱいというよりは枯れ朽ちる姿、キラキラと輝くものというよりは侘び・さびの情感といった志向になります。
太陽にも禅味を見出すことができる
禅はただ生命力のある存在を嫌っているのではなく、徐々に衰え力を失っていくものの先に再生の力を見出すというような逆張りの思想といった趣きがあります。
そこへいくと、日出乾坤耀は、あまりに分かりやすく生命力の発露を謳っていてどうも禅身に乏しいということになるわけです。
どん底に光明を見出す宗教
しかし、この素晴らしい夜明けの寸刻前には最も暗く冷たい夜明け前の時間があったわけです。 無一物中無尽蔵といったりする、どんどん減って何もなくなってしまうような状況です。
枯木再生花(こぼくふたたびはなをしょうず)といったように枯れ木のうちに生命力を見出す言葉もあります。
太陽も衰え、そして復活する
真冬とくに冬至からの太陽の回復ということには、さまざまな信仰においてめでたいこととされます。
クリスマスの起源も、北欧のより日照時間が短く日の光に敏感な人たちが冬至からの日照時間の回復を祝うお祭りに由来するという説もあります。
禅でも冬は、春を迎えるために不可避の時として、本当の力が試される試練の時として、春以上に大切にされます。
冬至・冬は禅の季節
月・陰の宗教らしく、輝かしい春・夏よりも、その前の厳しい季節に目を向けるというわけです。
冬に葉を落とさない常緑の松・竹、厳しい冬の最中にいち早く花を咲かせる梅、これらは禅の最も好む植物で、たびたび禅語でも用いられますが、理由はこうしたことによります。
この言葉の季節
夏の朝は涼しくて気持ちがよいですが、枕草子でも冬は朝がよいと言われているようにあえて冬の夜明けの言葉として用いるのがよいように思います。
特に冬至の朝です。
一年で最も生命力を失うその夜明け前、そして夜明けの日出乾坤耀と掲げれば、これ以上に太陽の復活とありがたさを祝う瞬間はありません。
まとめ
禅ではあらゆるものに仏性を見出しますが、この日の出は、まさにあらゆる生命、あらゆる人にとって恵みの光と言えます。
太陽のように輝いて生きるというと禅らしくありませんが、太陽でさえも毎年衰え、しかしその後に再生し、そして万物に力を与えると考えると、少し禅らしいひねりの効いた自己啓発の言葉になるかと思います。
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- 「道」:道とはすなわち禅の道
- 「雪」:禅は冬の宗教
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