猛虎当路坐(もうこみちにあたりてざす)
抜き差しならない状況と正面から対峙する
非常に難解な文脈で用いられている言葉です。
主に3つの意味合いがあって、禅の文脈の味わいと迫力ある情景が印象的な禅語です。
出典
『五灯会元(ごとうえげん)』、『虚堂録(きどうろく)』などいくつかの禅書に記述があります。
五灯会元(ごとうえげん)
優れた禅僧の言動をまとめた中国宋代の書です。
龍垂語云
鐘樓上念讚
牀脚下種菜
有人下得語契
便往住持
勝上座云
猛虎當路坐
龍遂令去住黄檗
書き下し文
龍(りょう)、垂語(すいご)して云(いわ)く 鐘楼上(しょうろう(じょう)に念讃(ねんさん)し 牀脚下(しょうきゃっか)に菜(さい)を種(う)う 人有(あ)って語(ご)を下(くだ)し得て契(かな)わば 便(すなわ)ち往(ゆ)かしめて住持(じゅうじ)せしめんと 勝上座(しょうじょうざ)云(いわ)く 猛虎(もうこ)、路(みち)に当(あた)りて坐(ざ)すと 龍(りょう)、遂(つい)に去って黄檗(おうばく)に住(じゅう)せしむ。
「関」:立ちはだかる絶対的関門
細い道にどっかりと虎が座り込んでこちらをみています。
どうしても虎の向こうに行かなければなりませんが、こち以上近寄ればたちまち喰われてしまいそうな状況です。
背中を向けて退けば、やはり喰われてしまいそうな眼光です。
どうしても突破できない修行の途上
どうこの状況を突破するべきか、禅では関門の「関」という字を用いて、対峙して乗り越えるべき障害を表します。
臨済禅では、禅問答が修行の一環でありますので、師に出された難問が修行僧にとっての「関」ということになります。
立ちはだかる「関」
正しい見解(けんげ)を師に示せなければ、何年も同じ問題を抱えることになり、次の問題には進めません。
まさに獰猛な虎が修行の道に立ちふさがっているような状況です。
修行僧でなくても、誰しも生きていくなかでさまざまな「関」が立ちふさがって、どうにもならないというような経験をするものです。
- 一鏃破三関(いちぞくはさんかん) 一鏃は一本の矢の意味です。 三関ですので、ひとつでも大変な関門を三つ一気に破る様子を表しています。
- 直透万重関(じきにばんちょうのかんをとおる) 3つどころか、数多の関門を突き抜けるという『臨済録』にある爽快な関門突破を表した言葉です。
- 鉄餕饀一飽 鉄餕饀は鉄の饅頭のこと。どうにも食えない「関」です。 一飽とは鉄饅頭を一つ食べきれば、という意味です。 下の句として「能消万却飢」と続き、関門を突破すれば(鉄饅頭を食べきれば)、飢えを一切消え失せるという禅語です。
- 鉄鈷舞三台(てんこさんだいをまう) 鈷(こ)は仏具のことで、鉄鈷は鉄製の仏具のことです。 三台は酒宴の席の舞楽のことです。 関門を突破して、重たい鉄製の仏具は音楽に合わせて踊り出すという、痛快な悟りの世界を喜びとともに体験しているようすを表しています。
窮地はチャンス
弱ってしまうような窮地に陥ったときに、禅ではますます困れ、困り果てろというような考えをすることがあります。
どん底まで落ちれば、後は上がるだけだというわけです。
中途半端に下るべき谷底を下りきらずに退いてしまっては、登るべき山を登れないという考え方です。
- 大死一番(たいしいちばん)
- 枯木再生花 (こぼくふたたびはなをしょうず)
- 泥多仏大(どろおおくしてほとけだいなり)
- 梅花和雪香(ばいかゆきにわしてかんばし)
- 雪裏見高節(せつりにこうせつをあらわす)
どっかりと道を塞いで座る虎とは
どっかりと腰を下ろして行く先を塞いでいる虎という構図をみてきました。
「座る」というのは座禅を示す禅の最重要キーワードですから、逆の視点があり得ることに気づきます。
虎は自分自身
つまり、どっかりと腰を下ろした虎は、自分自身であるという見方です。
あらゆるものの行くて塞いで、どかんと腰を据えて揺るぎない姿、この姿に禅者の理想を見出すという見方です。
「坐」は禅語の基本
実際、「坐」を用いる禅語には、そうした泰然自若とした禅者を表現したものがあります。
動物に例えるという例は稀ですし、虎に道を塞がれて困る情景を思わせながら、道を塞ぐ虎の方の立場を考えるという転換も鮮やかで、味わい深い禅語と言えます。
- 独坐大雄峰(どくざだいゆうほう)
- 坐看雲起時(ざしてみるくもおきるとき)
- 独坐鎮寰宇(どくざしてかんうをしずむ)
- 兀然無事坐(こつねんとしてぶじにざす)
- 閑坐聴松風(かんざしてしょうふうをきく)
まとめ
虎をいかに退治するか、いかに虎のごとくふてぶてしく生きるのか、
いずれにしても猛々しいカッコよさ溢れる禅語と言えます。
まずは、座ってみましょう。
日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。
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もっと短い禅語
禅語は基本的に短いものが多く、しかしながら意味が深いのが特徴です。
突き詰めると、たった一字でも味わい深い意味が生じるのが禅の世界です。
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- 「一」:一とは自分自身のこと
- 「風」:目に見えない、とどまらないもの
- 「月」:禅では悟りの喩え
- 「夢」:一切は夢という現実
- 「無」:無を強調するのは禅の特長
- 「道」:道とはすなわち禅の道
- 「雪」:禅は冬の宗教
- 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
- 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
- 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
- 「山」:静寂にして不動
- 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
- 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
- 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
- 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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日常生活で実践する
身の回りを片付ける
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