独坐鎮寰宇(どくざしてかんうをしずむ)
自分の世界は自分が治める、静かに。
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「寰宇」という字が常用漢字でな読みづらいですが、「かんう」と読みます。
言葉の意味と、禅の文脈での考え方をみていきましょう。
出典
『建中靖国続灯録』です。
『景徳伝灯録』 『天聖広灯録』の後を承ける禅宗史伝の書の一つです。
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『建中靖国続灯録』
多くの場合、略して「続灯録」と称されます。
僧曰。
如何是主中主。
師云。
獨坐鎮寰宇。
書き下し文
僧曰(いわ)く
如何(いか)なるか、是(こ)れ、主中(しゅちゅう)の主(しゅ)
師云(いわ)く
独坐して寰宇(かんう)を鎮む。
鎮むは、「平穏におさめること」の意です。
寰宇は天下、世界のことです。
意味
ある僧が聞いた
「主たる人物のなかでもとくに主たる人物とはどんな人物だろうか」
師は答えた
「そんな人物とは、一人静座して世界を平穏できる人のことだ」
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世界を治める人物とは
世界を治める人はだれでしょうか。
米国大統領でしょうか、かつての強大な帝国の王がそれでしょうか。
そうした為政者は常に忙しく、こなしきれないほど多くの仕事を抱えていそうです。
そうした人たちに座禅を勧めている言葉として、「独坐鎮寰宇」を捉えることもできます。
我を失って、国民や諸国にひどい扱いをするようでは困ります。
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ジェファーソンは数を数える
米国独立宣言の起草者であるトーマス・ジェファーソンの言葉です。
腹が立ったら、しゃべる前に十数えなさい。すごく腹が立ったら、百数えなさい。
When angry count to ten before you speak. If very angry, count to one hundred.
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数を数えるというアンガーマネジメントを用いる人は、ジェファーソンのような政治家だけでなく、スポーツ選手やビジネスマンなど多くいます。
数を数えるという作業は、座禅中に数を数える「数息観(すうそくかん)」に重なります。
落ち着いた気持ちがなければ冷静なプレーや商談ができないということです。
為政者ではなく、自分の問題として捉える
もう少し踏み込んで考えると、帝国の為政者でなくても、私たち一人ひとりにも置き換えることができそうです。
私たちも大なり小なり、自分のできる範囲内で治めるべき仕事や雑事があります。
「それらに対して冷静に事に当たるべき」という言葉として「独坐鎮寰宇」を捉えることができます。
私の世界を変えるのは、“私”自身
さらに踏み込むと、私たちの世界は、自分がどうするべきかが、為政者がどうふるまうか以上に大切であると考えることができます。
つまり、政策がどう変わろうとも、今日自分のやることには大きな影響はなく、翻って今日自分がどう過ごすは、自分の世界を大きく変えることになるということです。
具体的に言えば、室内を清潔に保つか、健康的な食事を料理して食べるかは、税金の多寡に関係がありませんが、自分の生活には大きな影響があります。
むしろ自分の生きること、そのものと言えます。
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世界地図上の世界ではなく
静かに座って、自分のなすべきことに集中すること、外的環境に左右されずに生きることを、この語は言っています。
静かに治めるべき世界は、地政学的な意味の世界地図上の世界ではなく、自分を中心とした世界のことを言っています。
自分を中心とした世界
自分を中心とした世界というのは、禅では非常に強調される概念です。
この「独坐鎮寰宇」は出典のとおり禅問答の答えの部分で、問いでは「主中の主」を問われています。
「主人公」という言葉があるように、自分が自分の人生の主人公であるということが、禅の考え方の基本にあります。
主中の主
つまり、聞いている方の修行僧は、「主中の主」の意味として、「自分の人生を全うする人のなかでも、その最たる人とはどんな人物か」と聞いていることになります。
これに対して師は「独坐鎮寰宇」と答え、「座禅をして世界を治めることができるような人物だ」と答えたことになります。
つまり、師の言うところの世界とは、最初から世界地図上の世界ではなく、「あなたの世界」のことを言っているということです。
「自分の人生を全うする人とは、心を落ち着けて自分が影響を及ぼし得る物事に対して正しく処することのできる人物である」というのがこの語の本懐です。
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自分を大切にする禅
主人公以外に多くの禅語で、自分を大切にすることは禅では勧奨しています。
自分を大切にすることとは、自分勝手にするということではなく、「自分の人生はすべて自己責任である」という意味です。
禅は徹底自力の宗教であると言われる理由はここにあります。
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いかなる圧政にあっても自分の世界は創造できる
自分の世界を治めているのは、為政者なのか、自分のなのか、その答えは人それぞれですが、禅では明確に後者であると考えます。
実例として、ヒトラー統治下のナチス強制収容所で生活し、命からがら終戦を迎え行き抜いたヴィクトール・フランクルの言葉を紹介したいと思います。
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これ以上ない厳しい状況において
ヒトラーがフランクルの人生や生活に与えた影響は大きく、妻、父、母を強制収容所で失っています。
強制収容所の強制労働は苛烈を極め、仲間が次々と衰弱死、凍死、餓死、発狂するような環境でした。
このような環境にあっては、さすがに「自分の世界は自分次第」と頭で理解しても、現実的な物理的な状況が明確に為政者の暴政によって、いかんともしがたい状況にあると言えます。
このような状況にあって、フランクルが気づいた言葉がこちらです
強制収容所ではたいていの人が、今に見ていろ、私の真価を発揮できる時がくる、と信じていた。
けれども現実には、人間の真価は収容所生活でこそ発揮されたのだ。
おびただしい被収容者のように無気力にその日その日をやり過ごしたか、あるいは、ごく少数の人びとのように内面的な勝利をかちえたか、ということに。
『夜と霧』
ヴィクトール・E・フランクル
人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
人間とは、ガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。
『夜と霧』
ヴィクトール・E・フランクル
まとめ
いかに生きるのか、という人生の一大命題に答えを与えてくれるのが禅です。
平和の世界をいかに実現するかは、いかに自分が平穏なこころで生活を自分が送るか次第であるというのが禅の答えです。
ぜひ今日、自らの生活で実践せよ、というのが禅の促すところです。
いかに受け止めるか、自分次第ということになります。
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