花枝自短長(かしおのずからたんちょう)
個性は自然と表れ、全体として自然に調和する
これぞ桜を詠んだという印象の禅語です。
禅は花のなかでも早春の梅を最も好みますが、この語は珍しく「桜」を思わせる文脈で禅の考え方を美しく表現しています。
それでは出典から確認していきましょう。
出典
宋代の禅僧、圜悟克勤(えんご こくごん)の語録にある言葉です。
古くから現代にいたるまで、最も重要な禅書の1つとされている『碧巌録』を完成させた人物として有名です。
圜悟語録(えんごごろく)
春色無高下
花枝自短長
書き下し文
春色(しゅんしょく)高下(こうげ)無(な)く
花枝(かし)自(おのず)ずから短長(たんちょう)
意味
春真っ盛りで、木の高いところから低いところまで
木全体で花が咲いている
花の咲いた枝は長いもの、短いもの色々あって
全体としては調和した姿になっている
解説
対句になっている言葉です。
「花枝自短長」は2句目にあたりますが、1句目からみていくことで理解が深まります。
この語の季節と花
春の盛りを詠んでいるので、まだ寒い時期の梅というよりは、暖かくなって満開になっている「桜」をイメージしてよいかと思います。
春色無高下
一本の桜の木をよく見ると、花は下の方から咲いていきます。
地表が近い方が暖かく、また根からの栄養も届きやすいためと言われています。
春色が高下無し、ということで、桜の花が上から下まで満開に咲いている様子と捉えることができます。
花枝自短長
この語は一本の桜を眺めているときに詠まれたものであることが分かってきました。
そうして一本の木をよく見てみると、当然ながら枝は良く伸びて長いもの、逆にごく短いものまで色々あります。
自然とそのような違いが創られています。
一本の木全体をみてみると、そうした枝の長短の違いもあいまって、美しく調和した姿になっています。
均等で左右対称なものにない、不均衡がもたらす絶妙な調和は、茶道・華道の原則とも通じるものがあります。
解釈を広げる
それでは最後に、この語の情景や解釈をさらに広げていきましょう。
壮大で温かい禅の世界が見えてきます。
情景を広げる
桜の花は気温の高い低地から咲いて、気温の低い山の桜は後から咲いてきます。
高下を広く解釈すれば、丘陵全体、山々全体が春の盛りで満開の桜に満ちている様子を思い浮かべることができます。
私たちも色々、長短あります
私たちもそれぞれ個性があり、得意なこと、不得意なことが色々あって、それでよいのだとこの語は言ってくれています。
それぞれがそれぞれらしく、という示唆です。
意味の近しい禅語
「それぞれがそれぞれらしく」という意味の禅語は他にもあります。
代表的なものを紹介します。
- 柳緑花紅(やなぎはみどり はなはくれない)
- 桃紅李白(ももはくれない すももはしろ)
- 眼横鼻直(がんのうびちょく)
- 松曲竹直(まつはまがれり たけはなおし)
- 孤明歴々(こみょうれきれき)
- 別是一家風(べつにこれいっかふう)
- 別是一壺天(べつにこれ いっこのてん)
- 山是山水是水(やまはこれやま みずはこれみず)
- 長者長法身 短者短法身(ちょうじゃはちょうほっしん たんじゃはたんほっしん)
この語の特徴
この語の面白いところは、そうした個性は自然に浮かび上がってくるものであること、全体として調和していることまでを表している点です。
私たちの個性を静かに育み、それが全体と調和し、全体を美しくしてくれると丁寧に諭してくれています。
まとめ
春真っ盛りの時期に、それぞれがそれぞれらしく、伸びやかに枝を伸ばすように生きることを促してくれる言葉です。
自然な個性が自然と育まれていくことが自然であると、穏やかに端的に示してくれています。
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