不期明日(みょうにちをきせず)

今日を全力で生きる。明日はない。昨日もない。

茶人と禅僧のやり取りに由来する言葉です。

唐代・宋代の禅書ではなく、近世の日本で用いられ、禅語として使われるようになった言葉です。

出典と意味を確認していきましょう。

出典

千宗旦(そうたん)と大徳寺の清巌(せいがん)和尚のエピソードに由来します。

千宗旦は千利休の孫で、利休切腹後に困窮した千家にあって、その後茶道として発展する礎を作った人物です。

原文

千宗旦は清巌の来訪を待っていたものの定刻になっても訪れません。

いらっしゃったら明日お越しいただくように伝えるようにと弟子に申し付けて、宗旦は出かけます。

帰ってくると茶室に書かれていた文字がこちらです。

懈怠比丘

不期明日

書き下し文

懈怠(けんたい)の比丘(びく)

明日(みょうにち)を期(き)せず

意味

怠け者の坊主は

明日のことを考えない

自分のことを卑下して怠け者(懈怠)の坊主(比丘)と言っていますが、これは逆説的な表現で留意が必要です。

不期明日(明日のことを考えない)はむしろ禅の重要な概念で、これを自分は守ると言っています。

ゆえに「懈怠比丘 不期明日」の2句から成る言葉ですが、「懈怠比丘」が禅語として用いられることはありません。

「不期明日」が重要ということになります。

解説

明日のことを考えないというのは後ろ向きな印象も受けますが、禅ではごく当たり前の考え方になります。

「明日のことを考えない」=「今できることに集中する」ということになります。

マインドフルネスは「今やっていることを味わいつくす」というような意味です。

今やっていることに集中して、心(マインド)が満たされ(フルネス)ている状況です。

同じ意味の禅語

  1. 今、ここ
  2. 而今(じこん)
  3. 吾常干此切(われつねにここにせつなり)
  4. 人生夢也 故護惜此一剎那(じんせいゆめなり ゆえにこのいちせつなをごしゃくせよ)

日々の実践

どれほど忙しくてもご飯を食べるときはご飯に集中します。

スマホご飯は厳禁です。

ご飯を食べるときも「五観の偈」といって、ご飯に関して思いめぐらせるべきことはいくつもあり、ご飯で頭がいっぱいになって然るべきです。

五観の偈

  • 一つには功の多少を計り、彼の来処を量る。
  • 二つには己が徳行の全欠を忖って、供に応ず。
  • 三つには心を防ぎ、過を離るることは、貪等を宗とす。
  • 四つには正に良薬を事とするは、形枯を療ぜんがためなり。
  • 五つには成道のための故に、今この食を受く。

食材がどこから来ているのか、何のために食べるのか、食べ過ぎないように、食事をいただけるご恩をいかに返すのか、考えながらご飯をいただきます。

POINT

日常生活を大切にする

日常生活には食事だけでなく、やるべき細事が多くあり、いずれも集中して済ませていくことが大事ということです。

食事のときは食事、歯磨きのときは歯磨きといった具合です。

掃除、洗濯、お風呂、トイレ、一切を集中して済ませていくと頭が冴えてきます。

気分転換も大事

気分転換をするときは、気分転換に集中します。

それ以外のことは考えません。

まとめ

過去も未来も考えずに、今やるべきことに集中していくという禅の生き方を示す言葉です。

多くの悩みは未来の不安や過去への後悔から生まれ、つい“今やるべき”行動がとれなくなってしまったりします。

一切を振り払って、”今”にまい進するあなたを禅は応援しています。

監修者:「日常実践の禅」編集部

日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。

編集後記

明日のことを考えない、今日を全力で生きる。

今日悟れる機会があるのなら、なんとしてでもものにしろ。

明日などあると思うな。

明日死んでよいと思って、今日為せと。

これを突き詰めると我々の日常は成り立たなくなる。

ある程度は先々を見越して生きているわけだし、明日は多くの場合やってくるはずだから。

とはいえ、これは刹那の衝動で今日を生きろと言っているわけではないので、涼しげに過ごす人に、そうはあっても明日の死を思って今日を生きよと、静なる人という前提の上で、さらに強烈な決断を促す一言である。

明日にはまた明日があるし、明後日にも明日はあるから、明日を思えば、これは明日のドミノ倒しが止まらなくなってしまう。

であれば、今日と明日の間に敷居を設けて、いっそのこと今日で断ち切るという意気である。

くれぐれも慌てさせる言葉ではないし、今日できないこともある。

ただ、確かに禅には長期の積み重ねによって何かを得る、というような処世訓が少ない気がする。

というか、一つとしてあるのだろうか。

むしろ日々是好日とか、その日、今日一日、もっと言えば、その瞬間というような時が止まるような考え方が多い気がする。

儒教のような世俗性が当然仏教には少ないからだろうか。

もちろん、長期がないわけではなくて、一瞬に永遠を見るような考えはあろうし、松寿千年翠というような長らくの繁栄、壽(いのちながし)を祈るようなこともある。

松や竹など常緑樹を喜ぶように長きの繁栄を言わる語も多い、と思ったが違うのかもしれない。

常緑樹を貴ぶのは、日々変わらぬ姿、不期明日の観点であろうか。

であれば、一貫性はある。

禅は究極、論理も矛盾も無といってしまうから、そんなことはどうでもよいのかもしれないが、松竹不期明日と考えたならば、それはそれで面白いかもしれない。

松竹が今日も青かったように、私は今日もよく過ごしたかと。松や竹の味わいが深くなった気がする。

明日も頑張ろう。

日常生活で実践する

身の回りを片付ける

禅は空理空論を避け、日々の実践を志向します。

身のまわりの片付け・清掃から始めてみてください。

最も始めやすく効果の出る実践方法です。

禅問答に挑戦する

多くの禅語は禅問答に由来しています。

興味のある方は挑戦してみてください。

座禅をする

座禅は最も基本的な”禅”の実践になります。

オンラインで座禅会に参加できる時代になりました。

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突き詰めると、たった一字でも味わい深い意味が生じるのが禅の世界です。

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漢字一文字のラインナップ

  1. 「一」:一とは自分自身のこと
  2. 「風」:目に見えない、とどまらないもの
  3. 「月」:禅では悟りの喩え
  4. 「夢」:一切は夢という現実
  5. 「無」:無を強調するのは禅の特長
  6. 「道」:道とはすなわち禅の道
  7. 「雪」:禅は冬の宗教
  8. 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
  9. 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
  10. 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
  11. 「山」:静寂にして不動
  12. 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
  13. 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
  14. 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
  15. 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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