盗人に取り残されし窓の月
誰にも奪われない心の豊かさ
秋の叙情とともに、豊かな精神世界と世情の乱れを詠んだ良寛の鮮やかな一句です。
ほんのりと心地よさを残すこの名句の意味を考えていきます。
出典
良寛の俳句です。
良寛は江戸時代後期の禅僧です。
僧としての名声を求めることをせず、寺も持たず、禅の教えに忠実に素朴に簡素に暮らし続けた人です。
残した歌や詩、書の表す禅の心が今日も多くの人を惹きつけます。
この句のものがたり
草庵に暮らす良寛の家に盗人が入ります。
モノを盗るならば、もっと立派な家に入るほうがよさそうですが、貧窮した世情で何でもよいので盗んで今日を食いつなごうという差し迫った実情が盗人にもあります。
実際良寛はほとんどモノを持っていませんので、盗人が持っていくものはほとんどありません。
茶碗や衣類などごくわずかな持ち物を盗人は持っていってしまいます。
必要最小限のモノしか持ち合わせていない良寛の持ち物を盗人が持っていってしまい、さすがの良寛も困ってしまいます。
やれやれと外を見ると美しい月が出ています。
盗人は必死で、これほど素晴らしい月が目に入らなかったのかもしれません。
何はともあれ、ないものは仕方ありません。
どっかりと腰を下ろしてみると、なんとも穏やかな気分になりました。
解説
月は、禅では悟りを示します。
多くの“月”を用いた禅語は、この意味で月を使って禅の境地を表現しています。
ここでも、人のモノを盗む悪い人は、モノにばかり目が行ってしまい、悟りに月に目が行っていないことが示されています。
モノは最小限あればよく、その最小限すらなくとも、豊かな精神世界のある人であれば、どれほどのことにあっても心の平静を保ち、落ち着いていられる様子が表されています。
心の貧しい社会を憂う
良寛からしてみると、自分のモノを盗んでいった盗人の心の貧しさや、貧しい人が貧しい人のモノを盗らなければならない社会情勢を憂いていたかもしれません。
盗人であっても人の“月”を盗むことはできません。
逆に、どれほど貧しい人であっても、“月”は平等に誰しもを照らす美しい光を帯びています。
人のモノを盗らず、自分の月を自分だけのものとせず、心豊かに生きることをこの俳句は示しています。
月の季節
禅の文脈において、“月”はほぼ例外なく、秋の言葉として用いられます。
禅語で表される情景としては、川面に映った月や、月をさえぎる雲が流れていくさまなどです。
ここでは、心をモノに奪われた人や、貧困者が貧困者のモノを奪う世情との対比という、中国由来の禅語にない、独特な情景が描かれています。
まとめ
目先のモノに心を奪われることなく、モノを人に奪われようとも「やれやれ」とは言いつつも泰然自若としていられるような、精神世界の充実に目を向けた人になりたいものです。
そうすれば、何があろうとも笑って生きていけるはずです。
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