水急不流月(みずきゅうにして つきをながさず)
流されるもののなかにあって流されないもの
読み方
「水急にして月を流さず」と読みます。
「水急にして月は流れず」とは読みません。
後者で読むならば、「水急月不流」と語順を変えなければなりません。
意味
多くの意味で捉えることができる言葉です。
それだけ味わいのある言葉と言えます。
意味① 悟りの境地は揺るぎない
水は淡水の川や湖ですが、ここでは急にしてと言っているので川のことです。
急流のイメージです。
月を流さずということで、水面に月が映っているけれども、それは動かないと言っています。
禅では月は“悟り”の象徴として扱われますから、悟りの境地は世の中の移ろいにかかわらず、不動であるという意味になります。
流れ続けるものと流れないもの
流れる川とは、人々の移ろいやすい感情や風評といったものと捉えるのがよいかと思います。
川の流れのように人びとの心は動き続けますが、悟りの月は流されることがありません。
「寂然不動」という言葉に表されるのように、静かに止まっている状態というのは禅の理想の姿です。
具体的には座禅をする姿というのが、まさに静かに止まっている理想状態ということになります。
変わらないもの
人びとの心だけでなく、経済状況も時間とともに、大きく変化します。
社会環境もまた然りです。
利を求めて右往左往する世情のなかでの不動の存在として、この語では“月”が用いられています。
人びとの価値観や経済社会は変わっても変化しないものもあります。
「雲静日月正(くもしずかにしてにちげつただし)」、「天行健(てんこうけんなり)」といった言葉も想起されます。
意味② 人を巻き込まない自分流
川がどれほど早く流れても、川面の月を動かすことはありません。
「自分のやり方を貫きながら人にそれを押し付けない」というさわやかな態度を表した言葉として受け止めることができます。
「別是一家風 (べつにこれ いっかふう)」、「別是一壺天 (べつにこれ いっこのてん)」といった自分の世界を強調した言葉が近しい言葉として思い浮かびますが、「水急不流月」の方が“人を巻き込まない”というもう一つの文脈が加わって、含意に厚みがあると言えます。
意味③ それぞれがそれぞれらしく
川は川、月は月、それぞれ違うという分別を表した言葉として理解することもできます。
この意味を表す禅語は数多くあり、このことがこの意味で取る大きな論拠になります。
- 柳緑花紅(やなぎはみどり はなはくれない)
- 桃紅李白(ももはくれない すももはしろ)
- 眼横鼻直(がんのうびちょく)
- 松曲竹直(まつはまがれり たけはなおし)
- 山是山水是水(やまはこれやま みずはこれみず)
- 月在青天水在瓶(つきはせいてんにあってみずはへいにあり)
- 鳶飛戻天魚躍于淵(とびとんでてんにいたり うおふちにおどる)
- 鶏寒上樹鴨寒下水(とりさむくしてきにのぼり かもさむくしてみずにくだる)
意味④ 忙しくとも本質を見失わない
日常生活や社会生活は時に時間に追われてしまいますが、そうした日々の生活を全うすることと、そのなかで静かな沈思の時間を作ることの両立を禅では説きます。
忙しさから周囲への配慮を失ったりせず、忙しいのだけれども涼しげでゆったりと見えて品のあるさまを目指したいものです。
そのような意味で「水急不流月」と捉えるもの禅の考え方に適っています。
- 坐一走七(いちにざししちにはしる)
- 坐水月道場(すいげつどうじょうにざす)
- 行亦禅坐亦禅(ぎょうもまたぜん ざもまたぜん)
- 静中動あり 忙中閑あり)
- 小隠隠陵藪 大隠隠朝市(しょういんはりんそうにかくれ たいいんはちょうしにまじわる)
- 動中の工夫は静中に勝ること百千億倍す
この語の季節
禅の文脈では、月は常に秋の言葉です。
わびしい秋の景色に、美しい月が上り、川の水面にも月が映っているような情景です。
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もっと短い禅語
禅語は基本的に短いものが多く、しかしながら意味が深いのが特徴です。
突き詰めると、たった一字でも味わい深い意味が生じるのが禅の世界です。
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- 「一」:一とは自分自身のこと
- 「風」:目に見えない、とどまらないもの
- 「月」:禅では悟りの喩え
- 「夢」:一切は夢という現実
- 「無」:無を強調するのは禅の特長
- 「道」:道とはすなわち禅の道
- 「雪」:禅は冬の宗教
- 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
- 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
- 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
- 「山」:静寂にして不動
- 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
- 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
- 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
- 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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