凛凛孤風不自誇(りんりんたるこふう みずからほこらず)
堂々として気負わず、他者を傷つけない生き方
いかに生きるのか、禅の宗旨がよく表れた言葉です。
素朴さと伸びやかさという生活態度、そして他者を威圧することなく勇気凛々と生きる姿が浮かび上がってきます。
対句と合わせると味わいが増しますので、まとめて紹介いたします。
出典
いわゆる禅問答を週緑した「碧巌録」の一節に由来する禅語です。
『碧巌録』第十一則
続きもありますが、ここでは重要な2文を取り上げます。
凛凛孤風不自誇。
端居寰海定龍蛇。
書き下し文
寰海とは世界、天下のことです。
端居は通常日本語では「はしい」と読み、 縁側に佇む様子を意味します。
凛凛(りんりん)として孤風(こふう)自ら誇らず
寰海(たんかい)に端居(たんご)して龍蛇(りゅうだ)を定む
意訳
精神的な充実と、決して偉ぶらない態度、そして騒がしい社会にあって静かに真理を見定める力を表した2行です。
一人、風のような禅者は凛々と勇ましいけれども、自ら自惚れるところがない。
世界の片隅でどっかりと腰を下ろし、この世の龍と蛇、すなわち本物と偽物を見定めている。
意味
すがすがしい禅者のたたずまいと賢さを示した言葉です。
順番に単語の意味を見ていきましょう。
凛凛孤風不自誇
まずは1行目です。
孤風が分かりづらいかもしれませんが、人のことを表しています。
凛凛
凛凛は勇ましく、りりしいさまのことです。
弧
弧風ですが、弧は一人の意味で、禅や仏教では「自分」を大切にし、その意味を通常「一」という字に表します。
時に、「弧明歴々」のように「弧」を用いることがあり、この語は弧を用いた場合ということになりますが、意味は同じです。
禅における「自分」
先ほど「自分」を大切にすると書きましたが、これは自分勝手をやるということではなく、「なんでも自分でやる」という自力を大切にする考え方に基づいています。
「風」
風は禅では「モノにこだわらない」すがすがしい生き方を意味し、「清風」と表されることが多いです。
清風はすなわち悟りの境地を示すさまとして用いられます。
「孤風」
ここでは弧風となっていますが、およそ意味は同じです。
「弧」を用いているので、「我れ一人」「独立独歩の人」という意味も重ねていることになります。
- 独坐鎮寰宇
- 独釣寒江雪
- 独坐大雄峰
- 乾坤只一人
- 天上天下唯我独尊
凛凛として自ら誇らず
堂々たる態度だけれども、少しもおごりがない様子です。
このような言葉がヒントになるかと思います。
- 金毛獅子
- 無事是貴人
- 寂然不動
端居寰海定龍蛇
人々が生きる欺瞞や愛憎に満ちた娑婆の世界にあって、そこからやや距離を置いた居心地のよい場所、縁側のような場所にいるとしています。
端居は端に座っている様子であり、明示されていませんが、座禅をしているさまが連想されます。
世界の縁側で座禅をしながら、魑魅魍魎として玉石混交の社会のなかで本物と偽物を容易に見定めている、としています。
この語の季節
上にも書きましたが、風は清風と表されることが多く、清風は「月」と合わせて用いられることも多くあります。
この場合は月は秋の言葉のため、秋の禅語になってしまいますが、この語は孤風となっているため、あえて類例の多い秋ではなく、涼を求める「夏」の語として用いたいものです。
下の句まで含めて理解すれば、灼熱の地獄のような世界にあって、数多の鬼たちが累々と嘘を重ねて闊歩しているけれども、禅者はそうしたはったりや嘘に気を留めず、涼しく独坐して、数少ない本物を指さし取り出すことができるということです。
まとめ
「堂々たる態度だけれども、少しもおごりがない」という一見矛盾する部分が、実に禅味に富んだ言葉です。
自ら体現するには、自ら実践する以外に道はありません。
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- 「一」:一とは自分自身のこと
- 「風」:目に見えない、とどまらないもの
- 「月」:禅では悟りの喩え
- 「夢」:一切は夢という現実
- 「無」:無を強調するのは禅の特長
- 「道」:道とはすなわち禅の道
- 「雪」:禅は冬の宗教
- 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
- 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
- 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
- 「山」:静寂にして不動
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