閑坐聴松風(かんざしてしょうふうをきく)
心を落ち着けて悟りの声を聞く
禅語で頻出する文字が5つ並んだ、禅味の強い禅語です。
「静かに座って松風の音を聞く」というこの語の含意を探っていきましょう。
禅における「松風」
まず禅では松がよく登場します。
松は真冬でも緑を保つことから、苦境で発揮される地力や生命力の象徴として扱われます。
ほかに、竹も同様の意味で用いられることもあります。
真冬に咲く梅も同様の含意があり、合わせると松竹梅ということで一層めでたい、特に正月の言葉になります。
- 巌谷栽松(がんこくにまつをうう)
- 青松多寿色(せいしょうじゅしょくおおし)
- 松無古今色(まつにここんのいろなし)
- 松樹千年翠(しょうじゅせんねんのみどり)
- 寒松一色千年別(かんしょういっしき せんねんべつなり)
- 寒流石上一株松(かんりゅうせきじょういっしゅのまつ)
- 雪壓難摧澗底松(ゆきおせどもくだけがたしかんていのまつ)
松風とは
松風とは松林に風が抜ける音のことで、松籟(しょうらい)とも言います。
禅語では宗教・哲学の議論が常に抽象的になるところを、身体的体験に引き戻す目的で、五感に働きかける表現がよく用いられます。
松風は、上記の禅で多様される「松」にまつわる表現のなかで、聴覚的な表現として松風の独特のシュンシュンという音を取り上げるかたちで用いられます。
生命力の象徴という含意を離れて、心落ち着けると聞こえてくる音という意味が込められて用いられます。
- 吟風一様松
- 微風吹幽松
- 江月照松風吹
- 古松談般若
- 水聲松韻一溪深
茶道における松風
茶がまが煮える音を、 松風といいます。
音が似ているという理由でそう呼ばれますが、 茶道の基礎は禅にありますから、むしろその考え方が通底しているところが重要です。
松林を通り抜ける風の音も、茶がまのお湯の音も、心落ち着けて味わうものということです。
心落ち着けると聞こえてくる音とは
心落ち着けると聞こえてくる音とは、つまり心落ち着けると分かってくるモノ です。
すなわち禅語では聞こえてくる音は、仏の声であり、分かってくるモノとは悟りそのものということになります。
松風にかぎらず、あらゆるモノに仏性を見出すのが禅であり、仏教です。
- 雨竹風松皆説禅(うちくふうしょう みなぜんをとく)
- 水鳥樹林念佛念法(すいちょうじゅりん ねんぶつねんぽう)
- 蛙鳴蝉噪是仏声(あめいせんそうこれぶっしょう)
- 山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)
聞く禅
身体的な禅では、形而上学的な議論を嫌います。
要するに、ゴチャゴチャ考えて理屈をこねるて理解するよりも、体感して体得することを目指します。
頭で理解するのではなく、体で覚えるといったところです。
そのために禅では日常生活にまつわる表現や五感にまつわる表現がよく用いられます。
聞くこと、音に関わる禅語はゆえに数多くあります。
漢語に由来することの多い禅語では、音は「声」と表されることが多くあります。
- 耳聞不似心聞好(にもんはしかず しんもんのすきに)
- 聴雨寒更尽(あめをきいてかんこうつく)
- 推枕軒中聴雨眠(すいちんけんちゅう あめをきいてねむる)
音は「声」とも表される
音は多くの場合、漢語表現で「声」と表されます。
声は難しい字で「聲」が用いられることの方が多いです。
人の声ではなく、音と理解しないとピンときません。
夜の音、とくに夜の川の流れの音を謳う禅語が多いのも特徴です。
闇夜で視覚が遮られ、聴覚が研ぎ澄まされた時の禅語ということが分かります。
- 雨滴声(うてきせい)
- 夜靜溪声近(よるしずかにしてけいせいちかし)
- 風暖鳥声碎(かぜあたたかくしてちょうせいくだく)
- 万戸打衣声(ばんこころもをうつこえ)
- 泉声中夜後(せんせいちゅうやののち)
- 徐行踏斷流水声(おもむろにゆきてとうだんす りゅうせいのこえ)
- 渓声便是広長舌(けいせいすなわちこれこちょうぜつ)
閑とはひまの意味だが
閑は静かでゆとりがあることを意味します。
逆は騒がしくて忙しいさまということになります。
閑は「ひま」とも読みますが、禅では騒がしくて忙しいことよりも、静かでゆとりのあることを好みますので、閑は良い意味合いを持つ言葉として用いられます。
- 松老雲閑(まつおいてくもしずかなり)
- 雲外一閑身(うんがいいっかんしん)
- 庵中閑打坐(あんちゅうしずかにたざす)
- 閑眠高臥対青山(かんみんこうざ せいざんにたいす)
- 絶學無爲閑道人(ぜつがくむいのかんどうにん)
- 雲在嶺頭閑不徹(くもはれいとうにあってかんふてつ)
坐は座禅
座禅を基本的な宗教活動とする禅では、当然座禅に関する禅語が多くあります。
静かに心落ち着けて座るということが基本となります。
- 帰家穏坐(きかおんざ)
- 独坐大雄峰(どくざだいゆうほう)
- 坐看雲起時(ざしてみる くもおきるとき)
- 兀然無事坐(こつぜんとしてぶじにざす)
- 独坐鎮寰宇(どくざしてかんうをしずむ)
慌ただしい日常生活も大切にする
禅では静かでゆとりがあることを良いこととするとしましたが、ただ静かに座っているだけでは生活に成り立ちません。
禅は生活実践の宗教ですから、日常の雑事、やらなければならない仕事で慌ただしく騒がしく過ごす時間も肯定されます。
どちらか一方だけがよいのではなく、両方大切と考えます。
静座の時間があるから、慌ただしい生活が心地よく送るのであり、慌ただしい生活は大切だが、その充実には静かな生活も必要と考えます。
- 坐一走七(いちにざししちにはしる)
- 坐水月道場(すいげつどうじょうにざす)
- 行亦禅坐亦禅(ぎょうもまたぜん ざもまたぜん)
- 小隠隠陵藪 大隠隠朝市(しょういんはりんそうにかくれ たいいんはちょうしにまじわる)
- 動中の工夫は静中に勝ること百千億倍す
まとめ
閑・坐・聴・松・風という禅でよく用いられる言葉で構成された閑坐聴松風は、禅の考え方や魅力が詰まった禅語と言えます。
言葉の魅力を良く味わうことは、まさに静かに気持ちで松風を聞くという閑坐聴松風の実践の一歩になるかと思います。
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禅語は基本的に短いものが多く、しかしながら意味が深いのが特徴です。
突き詰めると、たった一字でも味わい深い意味が生じるのが禅の世界です。
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- 「一」:一とは自分自身のこと
- 「風」:目に見えない、とどまらないもの
- 「月」:禅では悟りの喩え
- 「夢」:一切は夢という現実
- 「無」:無を強調するのは禅の特長
- 「道」:道とはすなわち禅の道
- 「雪」:禅は冬の宗教
- 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
- 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
- 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
- 「山」:静寂にして不動
- 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
- 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
- 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
- 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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