真味只是淡(しんみはただこれたん)
禅の考え方を多分に含んだ言葉ですが、出典は禅書ではありません。
まず出典の『菜根譚』の内容から意味を確認し、次に禅の世界観を探索していきます。
出典は『菜根譚』(さいこんたん)
洪自誠(1593~1665年)の随筆集です。
素朴に暮す生活哲学がつづられている菜根譚は、座右の銘の宝庫でもあります。
禅語としても使われる語がいくつもあります。
生活哲学の書
食事、人付き合い、季節のうつろいなどからいかに生きるのかを書かれています。
古そうなイメージですが、意外にも近世、日本でいうと江戸初期に書かれた書物です。
『菜根譚』(さいこんたん)
醸肥辛甘非真味
真味只是淡
神奇卓異非至人
至人只是常
書き下し文
醲肥辛甘(じょうひひんかん)は真味にあらず
真味は只だこれ淡なり
神奇卓異は至人(しじん)にあらず
至人はただ是れ常なり
意味
濃厚な酒、脂のよくのった肉、辛いもの、甘いものは本物の味ではない。
本物の味とはただ薄味である。
不思議な事や普通でないことを行うのは、本物の人ではない。
本物の人とは、ごく普通の人である。
解説
食事のあり方として捉えてもよいですし、人の生き方として捉えてもよいです。
禅に通じる言葉のため、時に禅語としても用いられます。
キラキラしない
禅の好む飾らない生き方や、「本物はさりげない」という考え方に通じる言葉です。
禅では「本物はキラキラしていない」ことをヨシとします。
- 和光同塵(わこうどうじん)
- 光而不耀(ひかりてかがやかず)
- 和泥合水(がっすいわでい)
古ぼけてみえるほど
キラキラしないどころか、古くて使えない道具すら禅では良きものとされます。
- 無孔笛(むくてき)
- 破草鞋(はぞうあい)
- 破沙盆(はさぼん)
- 没絃琴(もつげんきん)
- 閑古錐(かんこすい)・老古錐(ろうこすい)
知識も要らない
禅は人に誇るようなモノは不要と考えますが、同様に人見せびらかすような知識を増やすことも必要ないと考えます。
- 絶学(ぜつがく)
- 両忘(りょうぼう)
- 不識(ふしき)
- 如愚如魯(ぐのごとくろのごとし)
- 百不知百不会(ひゃくふちひゃくふえ)
- 不会如金 会得如屎(ふえきんのごとし えとくしのごとし)
禅書にある近しい言葉
もっと古い時代により禅旨に適う言葉がありますので紹介します。
莫嫌冷淡無滋味(れいたんじみなきを きらうことなかれ )
虚堂智愚(1185~1269年)の語録をまとめた禅書『虚堂録』(きどうろく)は、1269年に刊行されています。
虚堂は一休さんこと一休宗純(1394~1481年)が私淑していたことでも有名な南宋時代の傑僧です。
菜根譚よりは350年ほど前に書かれたものということになります。
『虚堂録』(きどうろく)
莫嫌冷淡無滋味
一飽能消萬劫飢
書き下し文
こちらの語ですと、食事という例えを用いつつも、その意味が明確に「教え」について述べられていることが分かります。
冷淡にして滋味無きことを嫌うこと莫(なか)れ
一飽(いっぽう)よく万劫(まんごう)の飢えを消す
意味
冷たく味気ない滋味のないものを嫌わないでほしい
一度食べれば永遠に飢えることはない
解説
この語では、禅の教えというものが、実に平凡で一見大したこともないものにみえるが、これを自分のものにすれば、心が迷うことはないという意味が述べらています。
それではその大したことないように見えるという禅の教えとはどのようなものなのでしょうか。
素朴な禅の教え
禅の教えの究極とは「当処すなわち蓮華国」「この身すなわち仏なり」です。
ここが
どこにも行く必要がない
ここを離れて、ついつい幸せの青い鳥を探しに行きがちですが、そういうさまよいを禅は退けます。
知足をもって、餓鬼を退けるということです。
いわゆるの「今・ここ」にフォーカスするということです。
「今」についてはこちらもご参照ください。
私が仏である
とても単純な禅の教えの究極は「あなたが仏である」ということです。
なんてことはないこのことを信じるかいなか、あなたの「自信」が試されます。
淡い禅の教え
当たり前のことを当たり前に受け止める
「神秘を語らず」が禅の特長です。
占いも奇跡もない、平凡な世界を極楽と捉える心の宗教が禅です。
- 柳緑花紅(やなぎはみどり はなはくれない)
- 桃紅李白(ももはくれない すももはしろ)
- 眼横鼻直(がんのうびちょく)
- 松曲竹直(まつはまがれり たけはなおし)
- 山是山水是水(やまこれやま みずこれみず)
当たり前のことを当たり前にやる
奇跡を語らない禅は、「苦行」を人に強いることもありません。
ただ、当たり前の生活をしっかりやって行こうと考えます。
- 喫茶去(きっさこ)
- 洗鉢孟去(はつうをあらいされ)
- 着衣喫飯(じゅくえきっぱん)
- 且坐喫茶(しゃざきっさ)
- 逢茶々遇飯々(ちゃにあえばちゃ めしにあえばめし)
- 飢来喫飯寒到添衣(うえきたればはんをきっし かんいらればころもをそう)
まとめ
取り立てて何もないことの素晴らしさ
平凡にして何もないことを喜ぶことが禅ではよくあります。
禅の理屈は簡単で、なんてことのない日常をありがたいと考えるので、だから今日すぐに幸せになれますし、どこでも極楽になるというわけです。
- 平常心是道 (びょうじょうしんこれどう)
- 別無工夫(べつにくふうなし)
- 無事是貴人(ぶじこれきにん)
- 日々是好日(にちにちこれこうじつ)
本物は素朴にして簡素である
「真理とは単純素朴であり、平易なもの」というのが禅の考え方です。
ゆえに禅の影響を受けた文学表現、芸術表現は、シンプルで素朴ないわゆる「枯淡」なものになります。
利休に始まる茶室や、芭蕉に始まる俳句にそれを見ることができます。
このページが皆さまの禅の真味を味わうきっかけになりましたら、幸いです。
日常生活のなかにある"禅"文化を探す活動をしています。「心に響く禅語」解説やオンライン座禅会を開催しています。
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- 「一」:一とは自分自身のこと
- 「風」:目に見えない、とどまらないもの
- 「月」:禅では悟りの喩え
- 「夢」:一切は夢という現実
- 「無」:無を強調するのは禅の特長
- 「道」:道とはすなわち禅の道
- 「雪」:禅は冬の宗教
- 「心」:何はなくとも心が大切と考えるのが禅
- 「坐」:座禅が“禅”の基本。しかし執着はしない。
- 「雲」:消え去る雲に捕らわれるな
- 「山」:静寂にして不動
- 「花」:何も考えずに生き抜く美しさ
- 「茶」:日常生活のメタファー(たとえ)
- 「水」:老荘の影響を受けて水は良きもの。川を意味する。
- 「喝!」:最も短いアドバイスの言葉
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日常生活で実践する
身の回りを片付ける
禅は空理空論を避け、日々の実践を志向します。
身のまわりの片付け・清掃から始めてみてください。
最も始めやすく効果の出る実践方法です。
禅問答に挑戦する
多くの禅語は禅問答に由来しています。
興味のある方は挑戦してみてください。
座禅をする
座禅は最も基本的な”禅”の実践になります。
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